ヴァンパイアと憂鬱
すべてにおいて従順である必要はない、確かに我らは一つの種だ、特別な種族であることに誇りをもっていて、そしてもちろん人間とは違う。
成長期の吸血鬼は大変だ、昨日高校で過ごしたたっただけで、犬歯はまたのびていた。師匠の言葉が耳から離れない、きっとその牙に気づくものはいるだろう、そうすると自分の血筋も見破られるものも時間の問題、なるべく目立たず、なるべく歯を見せぬこと、笑わぬこと。俺には友達がすくない、友達を信用しないし、学校のクラスメイトの中にでもまざるのは嫌いだ、学校なんて何もかもどうでもいい……と思うのは、いつかクラスメイトのだれかにきっと自分の本性を、招待を見透かされてしまう気がしているからだ。
師匠である祖父のいうとおり、自分がヴァンパイアの末裔であることに気がついたのは、最近のこと、耳の中で声がするのだ。
——前世の天敵にきをつけろ―—
俺は同じクラスの、妙に正義を気取った学級委員長が嫌いだ、いつか俺の正体をあぶりだし、正義の名のもとに俺を殺してしまうのではないかとすら思える、そんな気迫を宿しているのだ。昨日も……昨日、たしかに委員長は自分に驚いていたし、しかりつけていた、あきらかに俺の犬歯をみていた、しかし他の動物が俺をみて驚くような、他の人間が俺の長すぎる犬歯をゆびさすような、そんな事はしなかった、なぜだろう。ただたんに同じクラスの嫌煙の中のやつと、早朝のホームルーム前から喧嘩をするのをとめただけだった。
そもそも今の高校のクラスは、嫌いではない、丁度いい距離感がいい。だから委員長が昨日——俺が斜に構えてクラスメイトに暴言やちょっかいをはいたのを注意したことも———個人的な好き嫌いも、どうでもいい。種が違うのだ、それが学校でも街のどこでも、同じ種族は似通ったところで奇妙な行動をとる、人間は吸血鬼を恐れる。僕らが人間にたいして、おいしそう、と感じるのと同じように。だがあのクラスの人間の反応はいつも微妙にそれ自体、種が種として自然の反応を取る事を恐れていて奇妙だ、それがいい。
ヴァンパイアと憂鬱