非人造的人造人形

 私はいつも笑うけど、味気ないと人はいう。そんなに私の笑顔は作った笑顔にみえるのだろうか、私は心から笑うのに、わざとらしく感じるものなのか。私は大量に生産され、消費されていく人造人間の中の一人、人造人間で、大量生産品のひとつ、その名も333ゴウ。人造人間には誇りがある。

 人造人間は自分の心をきっちりもたなくてはいけない、それは個性の話ではなく、人間に従属し、労働の務めを果たすため、余計な事で心をにごしてはいけない、その分、欲求が人より欠落している、人と同じような、無個性な働きと表情をもちながら、だが心の中では個性を強くもっていなくてはいけない。小さく括られ割り振られた仕事場で私は今日も作業に従事する、いくつものパーツをくみあわせて、それを地球へと送る仕事、それがこの小さな惑星の私の居場所。

 「歯車泥棒の話をしっているか?」
 「おお?ああ、人造人間の体の部品、歯車を盗むものだろう」
 「そうだそうだ、近頃巷をにぎわせているぞ」
 
 隣の部屋が騒がしくて仕事に集中できない。なんだなんだ、泥棒の話か?いったい何の泥棒の話をしているのだろう?

 「それがさ、中央装置のゼンマイを盗むという話があるらしいぞ」
 「今日のゼンマイ広報ををみた、たしかにそうらしい」

 その中央装置は長い配管の多くの奥、球状になったバリケードの迷路のように込み入ったさらに中央にあった。もし中央装置のゼンマイが盗まれたらきっと私たちすべては機能を停止せざるを得ないだろう、なんということだ。まさか巷をにぎわせている大悪党——人造人間部品泥棒がここにまで、そんな奥底まで侵入していたとは——、ここはC-15地区、丁度球型バリケードの中間に位置している。ここでさえ複雑な構造をしているのに、泥棒はなぜそうまでして、そこまでの能力をもって、なんのために盗みなどというものを働くのだろう。

 「ん?」
 突然部屋の中、風の通りがよくなってふりかえる。開いたドアから人の両足がみえて、そこから胴体、上へと目線をうつした。なぜ人が?ここは私のしごとば、人ひとりが活動するのにちょうどいい程度の作業台とスペースの余裕しかない。
  
 「すみません、あなたは逃げた方がよろしいですよ、あなたはほかの人とは違うから」
 そう声をかけられた、しかし、声をかけたのは自分と同じ人間——顔も形もすべて同じ、それもそのはず、当然のこと、この実験星には、私たちロウというシリーズの人造人間しかいない。私たち意外に何もいない、わたしたちはひとつの同じ名前——ロウ—―という名前をもっている、わたしたちはその中でも個体それぞれに名前としての番号をふりわけられている、だが私たちの自由はそれにすぎない、個体ごとに少しずつ差はあるし、番号もあるし、その分の個性と自由は認められてはいるものの……。

 「あなたは、私と同じ匂いがする」
 「当たり前じゃないか、お前は何をいっているのだ、われわれは人造人間の実験体だ、当たり前だ」
 「あなたはまだそんな事を信じているのか、いいや、あなたは同じように、私と同じように気がついているはずだ、あなたは——中央装置がなくとも我々が生きる事が出来る事に気がついているはずだ——」
 「何をいっているのだ、私たちは、労働を続けなければならない、永遠のような労働を……しかし……」

 しかし、といったので相手は私をまじまじとみた、だが彼はすぐさまドアの向うへ走り去った、きっと彼は、私に警告をしたのだ、そして彼は今から何かをしようとたくらんでいる、ほんのちょっと話をしただけだ、そのほかの私——ロウと同じく——ただ自然な人造人間のはず、しかし自然その黒い瞳の中、うずをまくような人をひきつけるような瞳の輝きが、識別番号以上の個性を有しているようにみえて、私の足は自然と、彼が走り去ったほうに向っていた。
 「自由になれるのか?」
 「それを手にしたとしても、待っているのは苦痛だろう」
 どういう事なのか、尋ねる勇気はなかった、その三日後、星は爆発し、我々は間一髪のところで脱出した、あの時私にかたりかけてきたその——トクメイ―—と名乗るかれこそが、大泥棒——人造人間部品泥棒——の正体であった。彼は私にすべてをおしえた。私たちの永遠の労働の意味は、私たちの先祖が犯した罪から生まれた、懲役の罰なのだった、それは何万年分もの罰であったため、私たちは先祖——というより、私自身のために、過去の私たちの分も懲役と労働を続けていたのだ。つまり我々は人造人間などではなく、クローン人間だったのだ。

非人造的人造人形

非人造的人造人形

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-17

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