愛玩拒絶ペット

 今朝からペットがデータの餌をたべてくれない、スマートフォンから毎日と同じ時間に彼にエサを送ったのに、物理的なものじゃなくても彼との間には魂のやり取りがあると信じていたのに。

 「私はあなたの言う事をききません、金輪際イヤです、絶対に無駄です無理です」

 どうしてだろう。フローリングの床をお掃除ろぼっとのように、ころげた亀のように這って拗ねている、姿がきえたとおもったらソファーの向うでカーテンがゆれている、私はがっかりした。ペットのロボットに嫌われてしまった。とてもかわいいのに、なぜ。私がいつも愛しすぎたからだろうか。白い毛並み、つぶらなひとみ、それからまばたきが多いのも特徴、でっぱった鼻の先をくんくんとならすのは、元気の合図と説明書にあった。彼は犬型ロボットだ。

 「やさしくしているのに、どうして?」 

 私はベッドにねそべったまま起きるのもおっくうで、うなだれてしまった、ペットにも倦怠感はあるのだろうか、私に飽きたのだろうか、いつのまにか彼は、私のいつもすわっている小型の安楽椅子にこしかけて、私のほうをむいていた、それからすぐせもたれのほうへおりて、フローリングの床とカーペットの丁度間のあたり、テレビと私の視界を遮らない場所で、まて、の時にするようなちょこんと後ろ足ですわり、前足で胴体を起こしているようなポーズをして……しばらく静止した。
 私はどうしようもなく、嫌われたとしるのもいやで、冬のさむさもいやで、布団をかぶり、まくらを顎の下に抱えてまじまじと彼をみた、反応はない、彼はロボットにもどったのだろうか?しかし……あれ?とよくみるといつもとちがう、彼の胸のあたり胴体の全部からのびる機械内部を模したような装飾、それがチラチラと朝のひざしを反射している、それだけではない、装飾はよくみると虹色にひかっている、私は私の脳内の引き出しをこじあけて、まるで人の心に土足で踏み入るときのように、こそどろのようにこじあけて、荒し廻す、すると思い出したことがあった。
 これも彼を買ったとき、彼の説明書の中にあった。たしかこれは人の心を察したときに現れるサインだ。ということは、彼は今私の心の内部を察知したのだ。しかしなぜだろう、数十分経ち、テレビを消して、体をおこした、7時には一度おきて服を着替えて二度寝したのだ、私はセーターとジーンズに着替えていた、そして彼の前に同じようにちょこんと体育すわり、片方の腕はひざをかかえ、私は彼のほほにてをのばして、さぐるようにそっとなでた。そして自然に、私の言葉が彼の反応をさぐるようにゆったりとわたしのくちからとびだした。
 
 「ほら、私、ほんもののペットのようにあなたにやさしくしているわ、けれどちょっと怖いの、私あなたにやさしすぎて、依存しすぎているわ」
 「なぜ怖いのですか?私が言葉を話すから?」

 私は彼を抱きかかえた、彼は私の胸元であまえるように頭をあずけた。 
 
 「人間のスキ、はキライを含むことがあります」
 「何をいっているの?」
 「ご主人、私は昨日ほかのペットと遊びました、けれどあなたは心の中でそれを許さなかった、あなたは私にきびしすぎます」

 そうか、これがペットの感情が成長するという事なんだな、最近のロボットはすごいというけれど、まさかここまでだなんて、朝からじゃない、昨日からずっと、私のしぐさひとつから感じ取ることのできるような嫉妬を彼はひっそりと重くかんじていたのだ。そうか、とまた彼のひたいをなでた、明日散歩中お隣のペットと彼が仲良くしていても、優しく見守ることにしよう。

愛玩拒絶ペット

愛玩拒絶ペット

未来 ロボット ペット ご主人

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted