ト或操り人形

あるところに、1体の女の子の操り人形があります。
その操り人形は、とても(みにく)く、とても哀しい人形で、いつもほこりをかぶっていて、心も体も傷だらけ。
だから、その操り人形は、暗い部屋の片隅で、毎日毎日シクシクと泣き続けています。
そしてその操り人形は、もう心をなくしかけていました。
実は、その操り人形は、もとは普通の女の子だったのです。
とある恐ろしい呪いによって、ある日から、ご主人様の操り人形にされてしまいました。
でも、1つだけ呪いが解ける方法があります。
それは、真実の愛を持った1人の勇者が、その人形を操る糸を切ってくれること。
だからその操り人形は、真実の愛を持って自分を操る糸を切ってくれる勇者が現れてくれる日を、ずっとずっと待ち続けているのです。
でも、その操り人形はとてもとても醜いので、来る人来る人が、その操り人形を見る度に、ひどい言葉を残して、あるいは何も言わずに、すぐに逃げて行ってしまいます。
そしてまた、その人形を操る糸を切ろうとした人たちも皆、頑丈すぎる糸と、人形を操るご主人様の怖さにおののいて、すぐに逃げて行ってしまいます。

ある時、その操り人形の前に、1人の男の子がやってきました。
その男の子は、操り人形を見て、こう言いました。
「お前みたいなブスでデブなやつと一緒にいるのは嫌だ。」
そして、その男の子はすぐに逃げて行ってしまいました。
だから、操り人形の心と体に、傷が1つ増えてしまいました。

またある時、別な男の子がやってきました。
その男の子は、操り人形にとても優しくしてくれました。
そして、こう言いました。
「僕は、君のとても優しいところが大好きだよ。だから、僕とずっと一緒にいよう?絶対に、僕が君を操る糸を切ってあげるから。」
でも、その人形を操る糸は、とても頑丈でした。
その男の子が操り人形の側にいて、糸を切ろうとしてあげていることに気づいたご主人様は、怒り狂って、操り人形にめちゃくちゃなことをしてしまい、操り人形の体にひどい傷がついてしまいました。
そして、ご主人様は、その男の子に向かって、こう言いました。
「あなたは一体どこの誰ですか?色々と調べたいので、あなたの素性を教えてください。」
その男の子は、人形を操るご主人様の激しい怒りに恐れおののき、
「ごめんなさい。もう2度と関わりません。」
とだけ告げると、操り人形の前から逃げて行ってしまいました。
その直後、ご主人様は、操り人形の糸を、さらに頑丈なものに変えてしまいました。
だから、その操り人形の心と体の傷はさらに増えて、もっとボロボロになってしまいました。

そしてこの時、操り人形は悟ってしまったのです。
もう誰も、自分を操る糸を切ってくれる勇者は現れないであろうことを。
そして、自分を操るご主人様には逆らえないということを。

この時を境にして、操り人形は、自分を操る糸を切ってくれる勇者を探すことをやめてしまいました。

だからその操り人形は、体中傷だらけでホコリをかぶったまま、今日も暗い檻の片隅で、1人でシクシクと泣き続けています。

ト或操り人形

ト或操り人形

とても醜く、とても哀しい、1体の操り人形のお話。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-15

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