フリ
「もう別れよう」
何度目かわからない言葉を僕は吐き出す。
君への愛はもうここにはないんだ。
じゃあ、なんで君といるかって?
ただ、独りは寂しいから。 それだけの理由なんだ。
僕は正直に君へ告げる。正直すぎるほどに。
どうしてだかわかる?
僕たちが別れられない、って知っているからだよ。
君は僕の首を絞める。
「失いたくない。いっそ…」
君の涙が僕の頬に落ちる。
殺せ。殺してみろ。 僕は目を閉じる。
だって感じるんだ。
そんな力じゃ、人は死なない。
君が僕を殺せるわけがない。
気狂う愛情を君から感じたことなんてない。
ただ失いたくないんだろ?
寂しい時に隣にいる誰かを。ヤリたい時に側にある穴を。
それから、…何だろうね。
僕は言う。
「もう、おしまいだ」
「嫌だ! 黙れ!」
君は泣きながら、今度は僕に平手を繰り出す。
僕は両手で自分の顔をガードしながら、痛みに涙が滲む。
でも、これすらもフリだろう?
僕が骨折したり、顔中痣だらけになったことなんてない。
そんなことになったら、問題が起こる。
君はちゃんと分かっているんだ。
自分の守り方を。
そうして、泣き疲れて脱力した僕を、謝りながら抱く。
「ごめん。許してくれ。お前を失いたくないんだ」ってね。
くだらないこの茶番劇を何度も繰り返す。
フリさえしていれば、独りにならない僕は、君の自己愛を僕に向けられたものだと言い聞かせて。
そして目を瞑るんだ。
フリ