超能力者と先導ラジオ

 「おはようございます、はじめてください、あなたから、超能力を使うのです。世界に変化を起こすのです。」
 先導ラジオから声がする。このラジオはいつも超能力者を導くために、導くための言葉をはく。随分長い間私はこの声に感化されていた。然し今、私はもう声には従わない、声と彼等は同族のために力をつかう、現在超能力者の人間への反逆は彼等のせいで常に起きている、時にそれは事故であり、時にそれは事件。
 先導ラジオのリーダー、そのイメージは玉座に居座り、家来に命令をするだけのどこかの独裁者だ、低く心のこもった声で、彼はきっと黄金の玉座にすわっているだろう。私は対照的に暗い部屋にうずくまる、そして腰を落とし、かがみ、立膝をたてて祈りの準備をしている、まるで独裁者にひれ伏す格好で、衣服のこすれる音、ジャラジャラと音がする、これは祈りをささげるための装束だ。私はそれを想像し祈りをささげた、しかし彼のための祈りではなかった。
「超能力を使うのです」
 ひきつづき頭の中で声がする、いつから頭にその声が響くようになったのだろう、私は背筋をぴんとはり目を閉じ額の前で祈りの合唱をした。それから私の意識はもうひとつの俯瞰の目線を手にし、私は小さな地下室で4畳ほどしかない地下のコンクリートの冷え冷えとした室内で一人でいることを自覚した、周りには全面グレーの色がする。私は一人、超能力者に味方はしない、だからこそ私の超能力を使いこなし、人と能力者の心を誰よりもさきによみとらなくてはいけない、そうでなければ生き残れない、人の世界でも、超能力の世界でも、生き残れない、私には空気をよみ自体に備えるそれ以外の能力はない、思考をとめ、やがて10分ほど祈りを終え私は腕組みをして座りうずくまり体育座りをする。早く朝が終わればいいとおもった。平凡で異常な、長い長い朝のその時間が。

 声がする、近くの人の声だ、それは私から読み取る心だ。先導ラジオは近頃超能力者を集っているようだ、私が名付け、そうとらえるほかはない、頭の中に響く声、私はそれを先導ラジオと呼ぶ。毎朝きまった時間になりひびく、きっとテレパシーのようなものだ、毎朝毎朝声をかけてくる、私は声がするまでに常に祈りの準備をととのえ、我が家の地下シェルターの中で私はおびえながらその声を聴いている。家族はまだ眠っている、腕時計をちらりとみるとまだ午前の7時だった。これから一階へあがり、朝食の準備をする、トースターやパンの準備をしなければ。
「超能力者はその秘密を守り、団結するのです」
 どれくらいの人がその声をきいたのだろうか、近頃ニュースは超能力的犯罪によって多くの人間が犠牲になる、その話ばかりを放送する。いつからだろう、私は同類への敵意も、人類への敵意もうしなった、ただ私はこの戦争が終わることを祈っていた、先導ラジオは何かしらの秘密結社の一員が放送しているらしい、しかし彼等はなのらない、ただ団結を促し、かりそめに超能力結社と自ら名乗る。
「初めに始めるか、後手にまわるか、ふたつにひとつしかないのです」
 私は初めこそそのラジオに従っていた、なぜなら、彼の話、それには一定の説得力があるからだ。先導ラジオのいうことはただのひとつ、一時期から超能力者が爆発的に増加したこの世界で、どちらかが先にどちらかの種族を滅ぼさなければいけない、でなければ人間は超能力者を面白がり、またはモルモットになるだけなのだから。

超能力者と先導ラジオ

超能力者と先導ラジオ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-12

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