第7話ー2
2
オレンジ色の瞳がはっと見開かれた。
これにこたえるように遺跡に残りメシア・クライストを守護する役目につく【繭の楯】たちが全員、いやな予感を胸に抱いた。
「ホウ・ゴウの気配が消えた」
遺跡の一室に居て、天空に光る赤色巨星で赤く照らされた室内で、けだるさと息苦しさを感じていた能力者たち全員が、それを理解した。つまり仲間の死を手の平に乗せたように理解したのだ。
困惑するメシアの表情に、オレンジ色の瞳が降りる。
「つまり死んだということです」
アニラ・ザビオが独特のトチス人の紺碧色の髪の毛を撫で上げた。
この時代にメシアが現れた際の傷がまだ癒えていない彼女は、イデトゥテーションの支援部隊が残した医療装置の光を浴びながら、メシアを見つめた。
「それもさだめ。我らが運命だ」
分厚い声を出したのは、ノーブラン人の大男ボロア・クリーフである。彼はイデトゥデーションに所属していた時に、警備担当者としてあらゆる死を見つめてきた彼らしいもののいいようだったが、その顔にはどこか残念めいた影が差していた。
「僕が、僕がいるからこんなことに」
頭を抱え込むようにどうしたらいいか分らなくなるメシア。自分を守るために必死にこの周りにいる人たちは頭を悩ませている。どうして自分なんかのために。心中は混乱と自らに対する卑下で満たされていた。自分なんかを守らなくてもいい。そう叫びたかった。
しかしメシアの気持ちを読み取ったように、ボロアの大きな身体が声を響かせた。
「お前は生きることだけを考えろ。前にも言ったがお前はすべての要、救世主となる人物なのだ。ただ生きればいい。我らの事など気にするな」
そう言われてと気にしない人物などいようはずもなく、特に人のことを気にかけてしまう性分のメシアに、気にするなという言葉は、無理である。
この場にいるボロア・クリーフ、アニラ・ザビオ、マキナ・アナズ、サンテグラ・ロード、ジェイミー・スパヒッチの5人は全員、メシア・クライストのために生きている。彼の命を守るために生きている。
だが全員が本当に役割を理解しているかというと、そうではない。特にマキナは。
彼女はマリア・プリースと幼馴染だった。子供の頃、人に心を開くことができなかった彼女に、唯一、優しくしてくれたのがマリアであり、それからマリアに心酔にも似た感情を抱いていた。友を越えた愛情だ。その感情はメシアとマリアが付き合っている事実への嫉妬へとつながっていた。
だからメシアのことをマキナは守ろうとは思っていなかった。
それを堂々と口に出した。
「いっそすべてを終わらせればいいんだわ」
部屋の角でうずくまっているマキナは、まるでメシアを恨むかのような、目つきで睨んでいた。
「マリアを失ったのが悔しいのは分るけどさぁ。あたし達の生きてる理由って、彼を守ることなんでしょ? うまくは言えないけど、あんたのその恨みって、全部が壊れても良いって意味になっちゃよ」
甲高い声のジェイミーが珍しくまともなことを口にする。普段はわがままでプライドの高い彼女。それが戦いが始まってから、使命を深く考えるようになっていた。
「分ってる。マリアを失ったのは僕の責任だ。でも神父は最後にマリアが――」
マキナにマリアが生きているという真実を告げようとした刹那、サンテグラ・ロードが異変に気付いた。喉のつまり、息苦しさを感じたのである。最初は雨のせいかとも思ったのだが、違うとすぐにわかった。
「全員、逃げろ」
サンテグラが叫んだ瞬間、炎が部屋の中を渦巻いた。
メシアはボロアの太い腕に抱かれ、すさまじい速度で部屋から出て行った。
その時、メシアの眼にはすべてがゆっくりと見えた。まるですべての時間が制し寸前になったかのようにゆっくりと。
亜光速の世界では周りがゆっくりと見える。つまりボロアの加速能力の影響かでも、メシアは世界を認識することができるのだ。
メシアをボロアが抱きかかえ部屋を高速で逃げるのと同時に、室内にいた全員が遺跡の中、ビルの中にある都市へと投げ出されるように、炎に追い出されて部屋を出た。
すると炎の中から巨大な男が炎の渦に巻かれて現れた。やけど1つなく。
【咎人の果実】の襲撃だ。
ENDLESS MYTH 第7話ー3へ続く
第7話ー2