睡眠王国

 長い長い夢を見る、人々は同じ形状の、カプセルの中で眠っている、縦半分にわかれた青と白の面、白の面も二つにわかれて、反面が透明で中がすけてみえる。どうやらそっちが表のようだ、中の人はとても心地よさそうに眠る、それは何年、何十年、何万年も海の上でゆられていた。
 最後の戦争によって生き残った人類は、放射能汚染から逃れるべくとても長い長い眠りについた、彼等は放射線の危険がなくなったときにふたたびこの地球の上で目がさめる、カプセルはそういう仕組みをもっている。
 やがてその日がちかづくと、そのうち何人かが目を覚まし始めた、だが彼らはすこしおきるのがはやかったようだ、カプセルの内側にそなえつけの端末には、残り日数が表示されていた、残り三日、しかし思えばながかった、何万年もの間、彼等はねむっていた、最後の戦争によって、決して武器を取らなかった彼等は、睡眠王国という仮想の国をつくり、カプセルにたてこもった、最後の戦争はやはり核によって地球全土が汚染されてしまった、事前にその情報をうけとっていた睡眠王国民は、それまでにカプセルにたてこもり海中ににげだす準備を終えていた、彼等はひたすらかしこかった、ただあまりにも長い事ねむりすぎたようだった、そしてちらほらと周りの人間たちも起き始める事にきがつく、そして顔を見回す、なにか違和感があった、皆が皆同じように周りをみまわして、びっくりしたような表情でみつめあっている——睡眠王国——、その夢は、睡眠王国の人々が皆カプセルの中に入って眠っている間にももう一つの体がぬけだし、そのカプセルの上で活動をしていたかのような夢だった。それもそのはず、彼等は、一日中眠り続け、そして徐々に飽きがきて、余りに退屈すぎて目を覚まし、しかたなくカプセルの上で皆で語りあう夢をみたのだだった、それだけの時間夢をみているのだから、きっとそんな夢を見てもおかしくはないだろう。ただひとつおかしいのは、連絡を取り合う中でわかったことだが、複数人が同じ夢をみていたらしいことだ、夢の中で彼らは、波にゆられるカプセルの上で、くだらないことをはなしあっていた、彼等が驚いたのは、その痕跡がカプセルのガラス面の上でみつかったからだ、靴跡がみえる、それぞれのカプセルのガラス面に、たしかに彼らが魂のままで語らったときについたであろう靴跡がみえた、近くを見回しても人影はみえない、かわりに遠くに小さな無人島らしきものと、異形の木々がみえる、木々はぐるぐるくねくねとまがり変な形をしていた、彼等は端末によって仲間と連絡して、長い夢のことと、その夢の間にみた光景について、お互い話し合う決心をした。

睡眠王国

睡眠王国

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-07

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