からから回る

悲恋のお話。
もともとは学校の課題で書いた脚本です。お楽しみいただければと思います。


 遠くから聞こえる、飛行機が飛んでいく音。
 キン、と冷えた空気の青空の下の屋上で、君は困ったような顔をしながら俺に振り返った。
 そんな顔の君を見て、俺も困ったような笑みを浮かべて、君に向かって、言葉を発す。
 言葉を聞いて、君はあきらめたような表情を一瞬浮かべて、俺に笑顔を向けて言葉を返すと、背中を向けて、一度も振り返ることなく、屋上から去っていった。

 これは、俺が高校三年のとき、経験した、失恋。


『からから回る』


 割といいホテルの会場での高校の同窓会。
 驚いて何を着ていいか迷ったが、結局、いつも着ているスーツを纏って、やってきた。
 うっかり浮かないか心配だったが、周りも大差はない。
 八年ぶりとなる同級生の顔は、ぱっと見何も変わらないやつから、すっかり見た目が変わって「誰こいつ」状態まで様々だった。
 適当に数人と会話を交わして、今は会場の隅っこに逃げて、一人、貰ったワインをチビチビと飲んでいる。
 ……正直なところ、高校で知り合った友人と卒業後、会うこともなかったおかげで、居心地が悪いのだ。
 ふう、とため息をひとつ吐いて、和気藹々と喋りあう同級生たちを見つめると。
「翔太?」
 ざわつく空間にやたら透き通って聞こえてきた、自分の名前を呼ぶ声。
 視線を移せば、桃色のドレスに身を包む、女性の姿。……彼女は。
「……美琴、か?」
 名前をおずおずと出せば、彼女はぱあっと明るい笑顔を浮かべた。
「ああ!やっぱり翔太だ!」
 すっかりと大人びてしまったが、彼女の笑顔は、高校時代と変わっていない。
 彼女は、吉田美琴。小学生のころからの腐れ縁で、…そして俺が片思いし続けた奴だ。
「……雰囲気、変わったな」
 彼女は言われて自分の姿を見直す。
「そぉ?……余所行きの格好だからじゃない?」
「いや、そうじゃなくってさ」
 てんで方向違いな解釈をする鈍感っぷりも、健在のようだった。
 昔の美琴は、こんな女らしい服は好まなかったし、腰ほどにあった髪も、すっかり短くなって、肩にも届いていない。
 余所行きの格好だけが美琴の雰囲気を変えているわけじゃない。
 美琴は俺の知らない間に、すっかり変わってしまっていた。
「美琴!」
 会話を遮って、美琴を呼ぶ声。視線をやると、困り顔で男が立っていた。
「ここにいたのか」
「亮くん」
 美琴が口にしたその名前に、俺は聞き覚えがあった。
 それは多分、きっと俺が会いたくない奴ランキングを作ったら、3本の指に入るほどに、会いたくない人物だった。
 しかし、いやな奴ではない。むしろ真逆に、さわやかノー天気のばかだ。
「全く……目を放した隙にあっちゃこっちゃ好き勝手行きやがって」
「えへへ、ごめんごめん」
 二人は仲睦まじく喋りあう。
 男はふと美琴から目を離し俺に視線をやるとまじまじと見つめる。
「もしかして、高橋か?」
「……久しぶりだな、大城」
 しっかり覚えていた名前を呼ぶと、相変わらずの好青年スマイルっぷりを発揮する。
 こっちは、高校の時と変わったのはせいぜい身長と、がたいくらいだけのようだった。
「おお!!ひっさしぶり!!元気だったか!」
「ああ、一応。そっちも元気そうだな」
「おお、元気も元気!」
 よかったな、と言って苦笑する。やはり会いたくはなかった。
 なぜこんな人間と会いたくないと俺が心から思っているかだが、答えは単純明快。
 こいつと美琴は高校も卒業手前の頃に付き合いだしたからだ。
 ……そしてそのアシストをしてしまったのは何を隠そう自分で、会えば間違いなく『あの頃の自分を殴りたい』と考えてしまうからだ。
 事実、目の前の男女二人の仲睦まじい姿を見て、俺は泣き出しそうにすらなっていた。
「……お前ら、まだ付き合ってたんだな」
「うん、まあね」
 恥ずかしそうに、美琴と大城は目を合わせて笑う。
 鼻の奥がつんとして、俺はそっと目をそらした。
 泣くわけにはいかない。……何か話題を変えよう。
「それより、さっき何か言いかけてなかった?」
 もんもんとしていたら、美琴の方から、話題を変えてきてくれた。
 何か、と言われて、大城によって途切れた話題を思い出す。
「何か?あー……忘れた」
 実際、忘れたわけではなかったが、もう改まっていう必要があるものでもなかった。
 というか、今言ったら恥ずかしいだけだし。
「え、なにそれ、気になるじゃない!」
「忘れろ、大したことじゃないから」
 そう、大したことじゃない。むしろ、馬鹿っぽい話だ。
「えー」
 それでも不満の声を上げる美琴の横で、腕時計を見る大城は、しまったという表情を浮かべる。
「おい、そろそろ時間じゃないか?」
「えっ」
 美琴も腕時計を見ると、顔色を変えた。
「やだ!ホントだ!」
「何かあるのか?」
 聞けば美琴は、苦い表情を浮かべて、ため息をつく。
「これから仕事なの。ほんとは有休取りたかったのに、どーしても断れない仕事があって」
 やだやだ、とぼやく美琴の表情にはどこか楽しげでもあるのが窺えた。
「そうか、頑張ってるんだな」
「まーねっ」
「ほら、美琴、車出してやるから、早くしろって」
「あ、はいはい」
 大城が走っていくのを尻目に、美琴は、バッグから何かを取り出し、俺に差し出した。
「それ!私の連絡先!今度また、ゆっくり食事でもしよう?連絡してね?」
 早口でそういうと、名刺を押し付けるように渡して、ヒールで危なっかしく走って消えていった。
 貰った名刺を見つつ、再びワインに口をつけ、美琴の去った扉から、なんだか目を離せないまま。
 情けなくなるほどに、自分がまだ、アイツをひきづってることを滑稽にすら感じていた。

 ―高校三年の冬。
 それぞれ、進路が決まったり、まだ合格にたどり着いてなかったりと別れる時期。
 ちなみに、俺自身は、後者。
 そんな時期に、放課後の屋上で、美琴と俺は賢者ぶって、校庭を走り回るサッカー部を見下ろしていた。
「……受験かぁ、翔太はどこか決めたの?」
「俺は近所の都立でいいと思ってる…美琴は?」
「うーん、わかんない」
 からからと笑う美琴にさすがの俺もため息をついた。
 それでいいのか、お前、と態度で示すように。
「亮君がさ、」
「ん?」
 突然、ここにはいない大城の名前。
 俺の体は思わずぴんとなる。
 何せあいつが美琴に、好意を抱いてることに気が付いていたからだ。
 そしてそんな美琴も、無自覚だが……。
「亮君が、進学校、目指してるって、知ってた?」
「……いや?」
 そんなことは初耳だ。というかあまり、個人的な会話など前から皆無に等しい。
 だがまあ、ビックリするほどでもない。
 大城は性格こそバカっぽいが、あれでどうして、学年トップの成績だ。
「まあ、でも、あいつの頭なら行けるだろうなぁ」
「だね。……亮君、そっち行っちゃうのかなぁ。さみしいなぁー……」
 長い髪が、冬の風に靡く。
 校庭から聞こえる、男子生徒たちの掛け合いが、なんとなく遠くに聞こえた。
「お前さ、ほんと、大城のこと好きだよな」
「え?そりゃそうだよ、ずっと一緒にいたんだもん」
「いやそうじゃなくて」
 昔から、恋愛の沙汰に縁がなかったのは認めるけれども、何故そんなにも鈍感なのか。
 いや、俺の感情に気づいてくれないでいてくれてるのはありがたいのか。
「大城のこと、好きなんだろ。恋愛感情として!」
「へっ!?」
 美琴は驚く。やっぱり無自覚だったようだ。
 だが、そうやって困惑する様を見ていても、美琴が大城に惹かれてるのがよく分かる。
 ……そんな俺は大城なんかよりだいぶ前から好きだが、伝える気はもう、ない。
 伝えるには、友達の関係が長すぎたし、何より、美琴に好きな人ができたんだ。
 わざわざ言って、余計に困惑させるつもりもない。
「……お前、いけよ。今から、大城に告白しに行け!まだ遅くねえから!」
 俺が出来ることは、美琴の背中を押すこと。
 心の底からそう思ってなんかいなかったが、出来るのはこれだけだった。
 美琴の肩をつかみ、屋上の入り口に向かって押す。
「ちょ、ちょっとぉ!」
 勢いよく押されて、よろよろとする美琴は困ったような顔を浮かべて振り返った。
 文句を言いたげな顔だが、聞いていたら遅くなってしまう。
 強情な美琴の表情に、思わず俺も苦笑を浮かべる。
「行けって」
 強い口調で言うと、美琴は観念したのかため息をついて、そして笑う。
「敵わないなぁ」
 美琴はそうつぶやくと俺に背を向けた。
「じゃあ、いくね」
「早くいけって」
 美琴は、一度も振り返ることないまま屋上の扉を開けて消えていった。
 俺一人になった屋上で、俺はふらふらとフェンスに体を預けた。
 行き場のない思いをフェンスにぶつけたが、ただ手が痛くなるだけだった。
 何してんだ俺。自嘲気味に空を仰いだ。
 冬の雲一つない冷え切った青空に、飛行機雲が横切っていた。

 ―3日後の土曜日に、おすすめのイタリア料理店でご飯でもどう?
 そんなメールが美琴から届き、指定された料理店で待つこと約20分。
 落ち着いた私服でやってきた美琴は、同窓会の時とはまた違った印象を抱かせた。
「あれ、大城は?」
 てっきりまたみると思っていた顔がその場にはなかった。
 美琴は手に顎を乗せて、少しむすっとした表情を浮かべた。
「仕事が山積みで来れなくなっちゃったのよ」
「はは、それはごしゅーしょうさま」
 正直よかった、と思う心を許してほしい。
 笑いながら座る俺をみて、美琴は。
「これじゃこっそり浮気相手とご飯食べてるみたい」
 そう言ってころころと笑った。
 俺も少し思ったことだが。
「やめろ、ばか」
 俺は脇に置かれたメニュー表を取ってごまかす。
 そんな俺を見てまた、くすくすと笑う美琴。
「そ、それより、料理頼もうぜ……」
 話をそらすためにメニューをめくる。
 だが、メニューに並べられた横文字は、呪文か何かにしか見えない。
「よく分からんから任せていいか」
 メニューを美琴に押し付けた。
 ええ、と声をあげながら、メニューをぺらぺらとめくる美琴。
 そんな様子を改めて見つめる。
 そういえば、高校の時も、こんな風に二人でご飯を食べに行くこともあった。
 まあ、こんないい店じゃなく、適当なファミレスだったけれど。
 くだらない話、くだらないことをしながら過ごしたアレは、今思うと、デートだったのかもしれない。
 あの時とはもう、色々と変わってしまったけれど。
 そう思いふけっていると、美琴は、店員を呼びつけて、メニューを指差して注文した。
 かしこまりました、と言って去っていく店員の背中を見つめた後、再び美琴に視線を戻す。
「何頼んだんだ?」
「ん?秘密」
「……ああ、そお」
 会話がふと途切れる。何となく心地が悪かった。
 高校の時も、同窓会の時も一人で突っ走ってしゃべっていたのに、今日は何だかしおらしい。
「美琴?何かあったのか?」
「へ!?」
 あからさますぎる動揺。
 相変わらず、嘘をついたりごまかしたりが苦手な奴だ。
 あー、だのうーだのと声をあげながら、目を泳がす。
「……その、……あのね」
 もじもじとしながら俺に目も合わせずに話し始める。
 こんな美琴を俺は見たことがない。
 何となく、嫌な予感がする。そしてきっと当たる。
「……実は、ね。亮君に、プロポーズされたの」
「へ、」
 ああやっぱり、と心の底で思いながら、それでも衝撃的な告白で、俺の思考が固まった。
「結婚しよう、って言われたの」
 そういいながら、俺を見る美琴。
 何かを言ってほしそうな顔。何を言えというのか、この俺に。
 …いうべきことは一つなのくらいはわかっている。
「……そ、そうか……よかったじゃんか……オメデトウ……」
 よかった?おめでとう?どの口が言うんだろう。
 心の底から、やめてくれと、思ってるくせに。
 ……今言えば、まだ間に合うだろうか。
「うん、ありがとう」
 そんなことを思ってる俺に、美琴は笑った。
 なんだ、……俺の入る隙間は、もうないじゃないか。
 俺は自嘲した。
「何よ、困った奴みたいな顔やめてよ」
 美琴はそんなことを言うから、俺の内心には気づいていない。
 そんな俺たちの前に料理が運ばれてくる。
 少しの期待も、無駄だった。

 今度は、亮くんと三人で食べようね。
 そういって手を振る美琴を見送って、夜道を一人、フラフラと歩く。
 考えるのは、あの時、止めていたらとか、好きって言っていればとか、そんなことばかりだった。
 そんなことを後悔しても、過去は代えられないし、やり場のない怒りも、どこにぶつけていいのかわからない。
 全部、自分がしたことだ。
 大城と同じ大学へ行くと、言った美琴の背中を押したのも、自分だ。

 ―授業がすべて終わり、帰り支度をしているときに、美琴はそんな話をした。
「色々考えたけど、恋人だし、やっぱ一緒の学校がいいかなあって」
 今からじゃ、大変なんだけどね、と苦笑する美琴。
「いや、まあお前頭いいから大丈夫だろーけど」
「まあね~」
 さらりと肯定する態度にムカついた。
 美琴も美琴で勉強の順位は十の中にいるのだから、頭はいい。
 というかこの三人の中で、クラスの順位を後ろから数えた方が早いのは俺だけだった。
「じゃあ、俺だけハミか」
「翔太も頑張ればいけると思うけど?」
「やめてくれ」
 たとえ受かったとしても勉強についていけなくなるのが落ちだ。
 それに、二人と一緒に居って虚しい日々を送るのも勘弁願いたい。
 美琴は、俺を馬鹿にするように笑っていた。
「お前な」
「美琴~?」
 いい加減にしろ、と言おうとしたのを、遠くから聞こえた声に遮られた。
 教室の扉の向こうに亮の姿が見えた。
「あ、亮くん!じゃあ、翔太、また明日ね!」
 美琴は鞄を引っ提げて、大城の元へ向かった。
「あ、美琴…!」
 後ろ姿を、俺は何故だかひきとめた。
 相変わらずのさらさらストレートロングの髪が揺れる。
 うらやましい、このくせ毛まみれと交換しろと何度も思ったことがある。
「何?」
 美琴は立ち止まって振り返る。
 何と言われても、何もなくて、美琴を呼びとめるために伸ばした右腕を、ワキワキと動かして、やり場もなくなり、かゆくもないのに後ろ頭をかきむしった。
「あ、いやその……頑張れよ?」
「何それ?」
 訳が分からないな、とほほ笑んで美琴は大城と教室を去った。
 ……今思えば、俺はあの時引き留めようとしたんだろうと思う。
 だが、結局何もしないで、卒業と同時に、二人と出会うことはなくなった。

 美琴と食事をして2週間。
 メールのやり取りはない。
 きっと向こうも忙しいのだろう。それに頻繁に会って俺も平気でいられるわけがないし、好都合というべきか。
 いっそこのまま、また会わずに済めば、このもやもやした気持ちはいずれなくなるだろう。その方がいいんじゃないか。
 なんて思っていると、携帯がバイブで震えだす。
 画面に『吉田美琴』の名前。
 どんなタイミングだと、苦笑しながらメールの画面を開く。
 今度は何の用だと本文を開いて。

 ―亮くんの仕事の関係で、大阪に引っ越すことになりました。結局3人でご飯はいけなくなっちゃって、ごめんね……。せめてあいさつしたいので、当日、どこかで会えないかな?

 俺はいいしれない虚無感に、天井を仰いだ。
 なんで、泣きそうになってるんだろう。
 理不尽にも、あの時の楽しい思い出がよみがえって来る。
 ……なんてこった、俺は一ミリもあの時のまま動けないでいたようだ。


 数年前、毎日のように通った同じ道。
 わずかに、周りが様変わりしていたくらいで、特別何もあのころから変わっていない通学路。
 美琴が待ち合わせに選んだのは、高校の正門前だった。
 重い足取りで、それでも目の前に行けば、車を脇に止めて待つ二人が見えた。
「翔太―!」
 美琴はわざわざ俺の元へ駆け寄る。大城はのろのろと後を追ってやってくる。
「ごめんね、急に……」
「いや、別に……」
 呼び出しに関しても、急な転勤についてもこれはどうしようもないことだ。
 うちの近くにわざわざ来させるのもなんだかアレだったし、高校を選んだ美琴のチョイスはナイスだった。

 大城は俺に向かって手をあげて申し訳なさそうに笑う。
「急でわるいなあ。俺もびっくりしてんだ」
「まあ……しかたないだろ」
 何とも社交辞令なセリフだと、我ながら呆れた。
「たまには東京戻ってくるし、その時はよろしく頼むわ」
「ああ」
 爽やかすぎるほどに爽やかな笑顔を向ける大城に、もっと何か言うべきだと思いつつも、言葉が出てこなかった。
「もし大阪来ることがあったら、顔見せろよ?」
「行くことあったら、な」
 多分永久にないと思うけれど、と心の中で付け足した。
 会いに行って、結婚して子供もできて幸せな家庭が作られていたりしたら、俺はきっと耐えられない。
「あ、落ち着いたら、住所教えるからさ、年賀状とか、送ってね」
「わかったよ」
 答えて、しばらくの沈黙。
「……じゃあ、そろそろ行く、ね?」
 10分もないやり取りだが、もうつなぐ話もない。
「……ああ」
 美琴たちは、それじゃあ、ともう一度だけ言うと、止めた車の方に歩いて行った。
 これで本当にお別れだ。
 同窓会に行くのはやめよう。
 連絡先も、近いうちに変えて。
 きっとそれがいい、と考えていたら、美琴一人で俺の元に戻ってきた。
 どうかしたのか、けげんな表情を浮かべると、美琴ははにかんだ。
「言い忘れてたことがあったの」
 小走りでやってきたせいか、美琴は少しだけ肩で息をする。
「なんだよ」
 美琴は少し身をかがめて、手招きをした。
 耳打ちがしたいらしく、口の横に開いた手を置いて。
「んだよ、めんどくさいな」
 どうせ誰も聞いてないんだから、このまま喋ればいいのに。
 そう思いながらも、仕方なく耳を貸して。

 そして俺の耳に、美琴はたった二文字、呟いて、俺に笑うと、走り去っていった。
 車のエンジンがかかり、ゆっくりと走り出していく様を、変な体制で、ただ茫然と見つめていた。


『 好 き 』

 たったその二文字を呟かれた今日は、青空の向こうで、飛行機雲が一つの線を描いていた。




【完】

からから回る

元が脚本だったこともあり、改めて主人公の心情を交えながら書くのは難しかったです。
ここはどう表現しようかなど、改めて考えるという経験はなかなかないので、やるのはとても楽しかったです。

ここまで読んでくださいましてありがとうございました。

からから回る

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-30

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