第7話ー1

 土砂降りの雨の中、ずぶ濡れになったホウ・ゴウとアンナ・ゲジュマンは、空中にその身を置き前世の記憶が完全に戻った2人は、対峙したまま、雨粒越しに前世の姉妹を見つめた。
「トハ、もうやめにしましょう。貴女が現世で味わったことは、前世でわたしも味わった。あの辛く、意識をなくす感覚。男たちにおもちゃにされて、すべてを放棄した。貴女は母上とわたしを救ってくれた。だからもうやめて。救世主を殺せば、わたし達みたいなめにあう人がもっと増えるはずよ。だからもうやめましょう」
 ホウ・ゴウは嘴を動かした。敢えて前世の呼び名で妹を読んだのである。
「あたしが、前世でトハと名乗っていた1人の女が・・・・・・母を殺し、姉を殺した妹が、父の頭を目の前にして祖国の終わりを悟ったあたしの絶望が、貴女に、前世メハと呼ばれた貴女にわかるか」
 金色の細工が施された剣を握りしめ、雨に濡れながらアンナは笑った。だが心は笑顔とは裏腹に怒りがドロドロとしていた。
 剣を構えアンナは高速で飛行して姉の身体へと突進する。
 ホウ・ゴウはとっさに腕を凍らせ硬化させると、その剣を受け止めた。氷の粉が雨に溶け落ち、雨が氷に当たって湯気が立ち込めている。
「あたしの望みを、咎人が手に入れる果実の中身を、お前は知っているか」
 アンナの怒りがあふれ出た顔がホウ・ゴウに向けられる。
 力に巻けてホウ・ゴウの身体がとばされ、巨木の幹にたたきつけられる。
 剣の雨粒を振り払うかのように、中空を伝わる斬撃を放つアンナは、振ったと同時に叫んだ。
「あたしは父も母もあんたも、もう一度、祖国を復興させ、もう一度家族を取り戻したいんだ」
 稲光を背に叫ぶアンナ。
 斬撃が飛んでくるのを腹部の痛みをこらえながら飛行して飛んで、再び空中に制ししたホウ・ゴウ。
「もう終わったんだ。ジェザノヴァも父も母もいない。あの宇宙は消えたんだ。救世主を殺しても、復活などしない」
「あたしは約束したんだ」
 と、剣を振り斬撃を飛ばす。
 それを凍りの楯で受けて氷が砕けた。
「分らないのか。奴らが約束を守るはずがない」
 今度はホウ・ゴウが突撃し凍らせた手刀を突きさす。
 剣で受けるアンナ。
 前世で妹だったアンナにホウ・ゴウは必至に叫んだ。
「救世主を殺せば多くの人間がわたし達みたいな運命を辿る。それを阻止できるのは救世主だけ。それがなぜ分らない」
 蹴ってアンナを引き離したホウ・ゴウ。
 しかしアンナは腹部を抑えつつ、苦悶の表情を浮かべながら、まだ叫ぶ。
「あたしはすべてを取り戻す。すべてを」
 といってアンナは突撃してきた。
 ホウ・ゴウはそれを受け止めるべく腕を凍らせる。
 稲妻が巨木に落ちて炎が上がると同時に、2つの影は重なった。
 白人は灰色の血をまといホウ・ゴウの身体を貫いていた。ホウ・ゴウの嘴からは灰色の血が流れ落ちる。
「あたしはまた姉上を殺す。それでも家族を、そこくを――」
 そうアンナがつぶやいた時、ホウ・ゴウの凍った腕が鮮血を帯びた。最後の力でアンナの胸を手刀で貫いたのだった。
「わたし達の因果はここで断ち切る。恨みの因果はもう終わらせよう」
 ホウ・ゴウは軽く微笑み灰色の血を吐いた。
 するとアンナも赤い鮮血を口から吐き出す。
 2人の肉体はそのまま力尽き、今にも命を失おうとしている地球の地面へと落下していった。
 2人が落下した地面へちょうど、稲妻を受けて燃えた巨木が倒れ、2人の運命は終わったのだった。

ENDLESS MHTY第7話ー2へ続く

第7話ー1

第7話ー1

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-04

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