偽物天使計画
心の中で抑えていたものは、時として爆発する事がある、少女は入れ墨をいれた。痛みによって痛みをあがなう、毒を食らわば皿までくらえ。背中の入れ墨は、ばれなければとがめられる事もない、だがときとして、素行の悪いものとしての注目を浴びる事がある、誰もがそうではない、ただその文化の上で、識別の概念がそうであれば、そうなってしまう、かつては除外されていなかったものを除外したり、かつては寛容ではなかったものが寛容ではなくなったり。
少女は恨みを買っていた、多くの恨みを買っていた。高校で自己をつらぬいた、その恨みがときとして少女のもとへ跳ね返ってくることもあったが少女の味方も多かった、彼女はモデルの仕事を兼任していた。悪さと言っても相場はきまっていた、しかし高校最後の日、一度だけきついいたずらをされた。誰がながしたか入れ墨のうわさがひろがった、彼女は上衣の一部をやぶられたが、その途中で女性教師に助けられた。いじめたのはいつも女性、その時も女性だった、だが最後に助けてくれたのは女性だった。
少女は結局背中の入れ墨を指摘されなかった、その入れ墨は、自分の文化に似合わないものだったが、外国の文化にあこがれたものだ、——ある記事を読んだ、大事故や事件に巻き込まれた人が入れ墨をいれ、その時の事を忘れないようにする事がある——少女は決して人に入れ墨を推奨しない、ただすでに入れてしまった少女には考えがある、ただ少し、天使の片方の羽を、小さな羽を肩甲骨のあたりに書きこみ、両親と弟の亡くなったバス事故の日付を書き込んだ、少女は葛藤を抱えている、生きるべきか、死ぬべきか、貫くべきか、合わせるべきか、生きる事の罪悪感をかかえていきる、その苦痛こそが少女なのだ。
偽物天使計画