魔法使いの夫婦。
私は今夜、人の望む言葉を、それとしってわざとらしく頭でくみたてて、その人に告げた、もちろん私の望んだ言葉と行為だというわざとらしいふるまいとしぐさをつけたしておいた、だから彼はきっと私からそれをのぞんだのだとでもいうふうに私という存在の心境の変化を認識し、それによって実は彼自身の中にある、とある優柔不断な悩みに一つの区切りをつけたはずだった。
「ごめんね」
「なあに?なぜ謝るの?」
恋人は謝った、なぜ謝るかわからなかった、夜はもう深い、恋人の部屋でカーテンはしめて深夜の映画をみていた。私は彼に今夜とうとう私と結婚するつもりがあるかと聞いた、彼はなぜ謝るのだろうか。私は私の体の隅々をみわたした、そこら中に文様がある、それは彼には見えるが、他の人には見えないものだ、それは少しだけ血液に魔女の子孫としての影響が残っているためうきでるシミだ。彼はそれをしっていた、しっていたから私が魔女であることにも気がついた。
「どうしてあやまるの?」
「君は結婚したくないんだろう、だが子供がほしいんだろう」
彼はすべてを理解していた、彼は私とくらべてほんの少しの魔力しかもっていない、私は子供がほしかった、子供は生きる事をなしとげる、そして私の記憶を僅かに受け継ぐだろう。私は私が生きた意味がほしかった、そのために生きていたといっても過言でもない。けれど私が生きた意味を抱えて、それに縛り付け続けられるつもりもなかったし子供にもそうしたくないつもりであった。いいや、そんなのは嘘だ、きっと子供は魔女の血をつぐだろう、なぜなら私たちが近づき、ふれあい、恋人となり、やがて形式ばったものではなく結婚するからだ。だがきっと子供は苦しむだろう、そんな子供の姿をみたくない、その私が出した矛盾の答えに彼は気がついていた、私は二日前に、彼が買った指輪を見てしまった、そのことさえ、彼は見透かしていた、そのわずかな魔力だけで、私の素行のすべてを見ていたのだと思う、それだけで涙がでた、それでも彼は私を抱きしめて謝りつづけたのだった。
魔法使いの夫婦。