魔法使いと弟子。

 魔法使いの伝説の残る赤い屋敷に老いた男の魔法使いがいた、彼は師匠だった、彼には弟子が二人いた。弟子のひとりは努力家で、もう一人は楽天家だった。魔法使いは彼等二人にいつも分け隔てなく接する努力をしていた、職業をいくつももっていたし、魔法を使うという事はあっても、それにだって人と同じ程度の労力は必要だし才能は必要だ。だが師匠は弟子の成長を楽しみにしていたのでそんな素振りを少しもみせず、自分の苦労につて弟子たちに少しも話す事はなかった、むしろそっぽをむいて、彼等自身の手で成長する事をまっていた。二人の弟子はとても優秀で、彼の持つ書庫に毎日通うだけで一人でに勉強をしていた。
「お師匠さんまた本をよんでいるよ」
「今日も僕は掃除をさせられる」
 楽天家の弟子は、むしろ努力家の面を発揮することがあった、それは師匠がいつもきにかけて用事を負かすことで垣間見ることのできる意外な一面だった。努力家はむしろ、心の闇をもっていた、昔から彼は捨て子であることをきにしていた、なので師匠はその弟子にはできるだけかまうように、できるだけ優しくしていた、それが彼と、もう一人の弟子との中を引き裂くとは思わずに……。いつのまにか彼等は絶縁のような状態になってほとんど顔を合わせることもなかった、もっとも師匠の前ではそんな素振りは店もしなかった。今では喧嘩の理由を二人とも覚えてなどいない。

 何十年もたったころ、楽天家は立派な魔法使いになった、努力家は中途半端な生活をしつづけていたのだった、人間の世界でその日その日を労働者として過ごすこともあれば、いっときだけその才能を使い芸術家のような仕事につくこともあった、魔法使いとして世間から離れて暮らすこともなかった。いつも仕事が続かず投げ出してしまう。あるとき魔法使いは弟子をよびだしてこういった。
「お前は昔から考えすぎるところがあるな」
「お師匠様、私はいつもお師匠さまをみていましたから」
 師匠はそのときはじめて、自分が弟子たちに気を使っていることを、この弟子に見破られていたことをしった。そしてそれからは彼に気を使わぬようにして、何でも話、よき師匠と弟子として、あるいは彼が望むときには、人間と魔法使いとして、対等に接するようになったという。

魔法使いと弟子。

魔法使いと弟子。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-10-02

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