亜人の扉
亜人のお話、人間に近いながら人間になれなかったもの、亜人はそこら中、どこにでもいる妖怪。空気の中にもいるし、物質の中にもいる。人間は誰でも彼等と接触したことがあり、 寂しいとき、異空間とつながる扉からは、誰でもいつでも亜人と接触できる。ただ説得力がないことは、誰もが彼等と接触したときのその記憶を忘れているからなだ。
ここに、亜人と小さな少女が接触したときの記録がある、亜人にはひとつ特性がある、彼等と接触するとき必ず何かの契約と、取引を求められる。それは人によるが、亜人は人間になりたかったものなので、人間に近い欲求をもっている、接触した人間のため、人間の内なる欲求を具現化するのだ、そのかわりに取引と契約を求められるのだが。ある少女が自室でベッドのそばで、扉をあけっぱなしにしてドアを網戸にして、お風呂に入る前の数分間をのんびりすごしていた。
「どうか、私への用事をきかせてくださいませんか」
学校帰りの鞄わきにおいて、その少女の前に現れた緑の扉、やけにファンシーな扉からぬっと顔だけ出していたその顔は兎の顔だった。声のあと、顔がのぞき込んだ、扉は蒼く、宙にういている形だった。声は野太い男の声、兎男は話をつづけた。
「ふしぎの国のうさぎとしゃれこみましょうか!、貴方に契約と取引をお願いしたい」
「うさぎ?」
「アリスじゃ、この顔ににつかわしくないでしょう」
たしかにそれはそうなのだ、少女の前にあらわれた亜人の顔はまさにそこら中にあふれかえっているような、ゲームセンターでよく見るような顔つきのぬいぐるみだった。それは顔はそのとおりだったが、それの首からしたは成人男性としか思えない体つきをしていた、少女はその時、はじめてその幼い心に軽くトラウマじみた恐怖が生じたのを感じた。それをさっしてか、そいつは首から下をなるべくみえないようにして空中に生じた扉から顔だけでこちらにうったえかけていた。それは少女の小さな自室のふかふかのベッドの上に浮き上がって、少女が寝転んで漫画を読んでいる最中だった。その最中に現れたので、だから少女は急いで過激な少女漫画を背中に背負うようにかくして、彼と会話をしだしたのだった。
「何のようですか?」
少女は不思議と、平然とこの状況を理解していた、会話ではなく、単なる概念で彼の存在と彼の要求を心の奥深くで認知していた。
「お前が一番わかっているじゃないか、今日一番心に引っかかっている事は何だ」
少女は、急いで少女漫画を彼のいる扉と自分との間につきだして、さしだしていった。少女はこれが、現実のものではなく、たとえば昔話の中にでてくるような、恐ろしい怪物か何かだと感じた、それはその姿や体つきからも連想されたことだった。
「母に隠れてちょっと過激な少女漫画を買った事です」
「本当か?」
少女は隠し事をしていた
「本当です」
「うそをいっていないな?」
いくらかの押し問答はあったが、兎の顔が、鬼のように恐ろしい顔になり、ボタンがついていただけの目と口が、立体的な彫刻のようなリアルな様子になったので、ついに少女は真実をかたりだした。今日は学校の授業がすべておわったころ、教室の廊下にて、少女は大親友、友人と喧嘩をしたのだった、友人が何度も掃除当番をさぼって、自分におしつけてきた。
「なんでいっつも私ばっかり掃除しているの!」
ホウキをかかえ、雑巾やちりとりをそばにおいて、友人をにらみつけ、少女が涙顔で起こると、友達がお気に入りの猫柄のハンカチを少女にわたした。その後、少女は怒って友達の大事なハンカチを投げ捨てた。
「帰る」
と友人、友人は意地をはってか、ハンカチをそのまま捨てたままにしていた。少女は本当は後悔していた、なぜなら友人が掃除をさぼらなくてはいけない理由は、病気の祖母の面倒を見て、少しでもそばにいたいからだという事も理解していた、だけど今日は朝からやけにいらいらしていたのだ、そのことを兎に話すと、それに兎の亜人はこたえた。
「よろしい」
少女はすべてをうちあけた、途端、うさぎの亜人ものをうごかす力をつかった、それは亜人特有の超能力だった、友人の大事なハンカチは隠されていた場所から宙にうきあがりはじめていた、学校の校庭のそばを通る渡り廊下の生垣のような木々の中に少女は、友人のハンカチを隠していた。亜人の扉をとおり、亜人の手元へと一人でにとびあがっていった、それが今、亜人の手元から彼女の手元へとわたった。
「はい、忘れもの、明日して渡して、ね」
少女の亜人は、代償にハンカチを要求した、そして契約は、少女が自分の罪を許すること。少女は亜人に要求されたとおり、自分にとって一番のお気に入りのリボンを亜人に渡した。
亜人の扉