魔女の罪

 大事件がおきた。時間と空間が爆発的に膨張し、収束していく、その瞬間を認知できたのは、その魔術の被害者だけだった。魔術の体験者はそのとき、その事件が“二度目”だと覚る、時間は巻き戻り、彼等は二度も、苦痛の人生を歩んだ。
それはすべて、一人の退屈の魔女が起こした事件だった。魔女は何をしたのか?彼女は人生に退屈していたため、寿命の半分を魔術の代償にささげて、時間を巻き戻した、彼女は暇つぶしにある魔術を少数の人間に対して使用した。それは、彼女が世界中から探り出した陰湿な人間、その人間の過去をもう一度体験させ、過去のトラウマをもう一度その者たちに体験させる魔術だった。
 ある一人の前に、真黒なコートをきた魔女が現れた、にやにやとわらっていた。
「あなたはとても陰湿な事をして、恋敵を苦しめた、その時点に戻します」
 それは少女だった、まだ若い少女だった。彼女は、自分の犯したことの重さがわからなかった。法律も犯していない、そもそも自分がしでかしたことという実感もない、彼女はネットでみつけた人を呪う呪術をつかって恋敵だった——親友——を事故にあわせた。しばらくは自分が起こしたことだと認められなかったし、偶然だとおもった、だがある日、友人に面と向かって伝えられた。
「事故に遭う寸前、あなたが道路に飛び出しているのを見た」
 親友はツーリング中の事故で怪我にあったのだった。それからというもの、以前とはうってかわって暗い人間になった、恋敵とも、親友とも音信不通になった、彼等が恋人関係になっている事も、遠巻きに人から聞いた。もとはといえば、彼女が親友と同じ人間を好きになったその親友がきっかけだった。それから一年しかたっていない、だが彼女はその記憶を“ふたつ”持っていた。そもそも親友を事故にあわせた件だけで不登校になっていたが、それが“二度目”だと気がつくと、そのことでさらに気を病んで、引きこもり状態になった。だが1ヵ月で目を覚ました。ある匿名掲示板で、同じ“魔術”を受けた人間とコンタクトをとったのだった。

 もう一人の人間は、看護婦の、元宗教家だった、彼女はかつて、自分の宗教を否定する宗教家だった。自分自身も嫌気がさすような悪質な宗教にはまり、人に薦めることのできない宗教を人に薦める、その理由を、自分の心の安定がない事にこじつけて、斜に構えていた。彼女のその過ちも過去の事、といっても彼女はすでに現代では女性というのにふさわしい年齢だったが、ある若いころ、ある宗教の勧誘にだまされ、人に不幸を押し付ける事によって、悪い宗教を押し付ける事によって、人間の救いとは、宗教の意義とは何かと考え続けていた、悪質な宗教に騙され、同じようにその宗教に騙される人を増やしていた、それは遊びだった、そんな事をしたのも彼女の浅く、深い、心の闇がもたらしたことで、ただそのころ自分の人生が苦痛だったことが理由だった。

 二人は、コンタクトをとり頻繁にあった、魔女と彼女らは、術の行使のまえに少し会話をしたくらいだったが、魔術の発覚を恐れた魔女も、彼女らと少しずつ接触するようになった。魔女は聖なるものや宗教を恐れて、人目をさけながら、彼等と出会った。それもまた、暇な魔女にはスリリングだった。といってもほとんど手紙の受け渡しのやりとりだったが、ある日、彼女らは、魔術の結果について魔女に感謝の手紙を渡した。

少女はいった。
「暗いものが陰湿なのは当然の事です、むしろそれが救いです、そうでなければ、人は目的以上の目的を持たないでしょう」
宗教家の女性はいった。
「それでもあなたがいなければ、私たちは過去と正しく向き合えなかったでしょう」

魔女はその時、はじめて自分のささげる事にした代償の大きさをしった。

魔女の罪

魔女の罪

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-28

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