ゾンビですから
そのころアメリカ北大陸のある州にバリケード状の厳重な封鎖設備、その中に監視用のラボラトリがあった、防護服をきた医師たちが、ひとりのゾンビの監視にあたっていた。
「気を付けてください、気を使ってください、ゾンビですから、自分にも何もわかりませんから」
20代男性。彼以外に感染者はなし、地上で初めてゾンビに感染した人間はそういって大勢のすべての人類に助けをもとめた。症状は肉体の腐敗と、不死。感染元は不明で、感染対象の彼の自宅近くで白いラボの内部に隔離され、周囲を塀で囲い、アメリカの特殊部隊、軍が出動して対応にあたっていた、唯一の対処法、それは隔離と監視のみ、彼は悪意をもたず意識もはっきりとしていたようなので、国も、軍も警察も彼に丁寧に接したし、彼がおとなしいのをいいことに対処やゾンビウイルスの発生源の特定、ワクチンの創薬のために常に監視し、利用された。隔離された白い簡易的なラボの狭い部屋の中で何人もの科学者や意思が仕事に追われ、何日も監視されたがそこでも感染元の特定ができず、空気にも異常はみられず、彼自体からもウイルスによる変化の痕跡はなく、様々な特定ができなかった。ただ、彼は時々吐き気を訴える事があった。
「ひとつだけ、気にしている事があるんです」
彼は、食欲があったが、何をたべても満たされることはなく、時々猛烈にそのことが精神的負担であるようなしぐさをみせた、頭をかかえたり、部屋をうろつくことがあった。
「くるしい、くるしい」
彼は善人だった、ただひとつ、一つの欲求を隠すこと以外においては……。
「家族と会いたくはありませんか?」
「私は、家族と、会いたいです」
三日後、すぐに遠方にすむ家族が彼のもとにかけつけた、彼は、家族の前で、彼の本当の欲求について話した。食欲が絶えない事、その対象が家族であること、それによって、パイプ椅子に向かい合う家族の前で、同じようにすわり、ぶるぶると、頭を抱えて震えだした。
「家族をたべたい、たべたいんだああ」
そういって彼は、ここ数日たべていた胃の内容物をすべて吐き出した、あとでわかったことだったが、その食欲と、食欲の対象——もっとも愛する者——を目撃したときにくる吐き気、それが新型の——ゾンビウイルス——の特性だった、そして彼の家族は、第二の感染者となった。
ゾンビですから