無計画倫理プログラム
アンドロイドの起こした重大事件。突然の計画変更や、倫理プログラムの仕様変更を禁じます。社内にはこういう教訓が描かれた紙がところどころにはりつけてあった。コンプライアンスを健全に意地していて、ロボット倫理法のルールを守り続けていた有名企業、優良企業と世間で評価されている巨大企業のA社は結果的に、世界で初めてアンドロイドによる殺人事件を起こした。
「アンドロイドにだって悩みのひとつやふたつはあるはずだから」
法令違反を起こした直接の原因は、社内で倫理を扱うひとつの専門部署のたったの一人だった。外観や性格、趣味などのプログラムは完全に別の部署であつかっていて、この部署は主にロボットが人間を気づつけないために施行された法律を守るためにだけある。彼女がなぜたった一人で、殺人事件を起こすようなアンドロイドのプログラムを組んだのか、その理由は、その部署の部長、彼女の労働環境にあった、彼女は部署のすべてに気を使い、若い間に残業などをさせないために毎日人一倍働いていた、もっとも彼女を変えてしまったのは、その気疲れの事も大きな要因だった、それが彼女の精神衰弱を引き起こしていた。そのほかの理由には、彼女の大切な人の死、彼女には恋人がいて、彼女は日ごろから彼女の夢についてその恋人と語り合っていたのだった。
「いつか、アンドロイドの心も、人間が理解できるようになるわ」
それはちょうどアンドロイド産業の黎明期で、まだ富裕層にしかアンドロイドを所有する事ができずにいた。しかしその大会社では、すでにアンドロイドの生産施設や、設備などが整って、彼女らの部署も安定を取り戻してきたそのころだった、彼女は、恋人の思いがけない死に直面した、突然大病を患って、その恋人の衰弱具合を見ながら段々と彼女も暗くなっていった、彼女には、周辺の世話をする世話役アンドロイドがいたが、精神面で彼女の手助けにはならなかったようだ。そのとき彼女は、かねてから自分の中にあった何かわだかまりの様なしこりのようなものがかすかに目覚めていくのを感じていた、そのころ、部下などに恋人の死や病気、自分の職務の重圧について話をするようになっていたが、誰も直接彼女の力にはならなかった。事件後、後から思えば、彼女の弱りきった態度や、疲れを感じさせる態度など、今までの彼女にない様子はあったと部下たちは話すが、すでに彼女の性格と人格は一定の信頼と信用を得ていて、重要な案件や、最終チェック、責任が任せきりで、正義感のつよかった彼女がまさか、そんな事件や、法律違反など起こすわけがない、と思われていた。彼女が細工をしたのは、高所得者むけのオートクチュールの特性アンドロイドだった、事件を起こしたあと、警察の調査の結果、アンドロイドの倫理プログラムに法律に違反する部分が認められた。彼女はそのアンドロイドに法律で禁止される程度の人間への“仲間意識”を目覚めさせた、詳しい事は割愛するものの、それは法律の定める“アンドロイドより人間の権利が優先されるべき”であるという部分に大きく抵触していた。
逮捕された彼女は、すでに正気を失っていて、精神衰弱の様子がみられた、カメラにとられるときも、歩き方もおぼつかず、テレビやネット等マスメディアは彼女の法令違反の理由は恋人の死だと繰り返し報道した。それは実際、彼女が最後まで話さなかったのでわからなかったが、懲役刑を受ける間、彼女が獄中で手記をつづっていて、その中で語ったことの中には、
「私は常々、人の死も悲しむことのできないアンドロイドがかわいそうだとおもっていた」
という一節があった。
無計画倫理プログラム