ノウハウゼロ

 「改造人間プロジェクトへようこそ、ご当選おめでとうございます、それからご応募ありがとうございました」
 近頃話題の改造人間プロジェクト。当選したのは、ひと昔前に一世を風靡した教育番組パペットニャウミャウの踊り子お姉さんだった。お姉さんはそのころと同じ格好で、きらびやかなスタジオセット、カラフルな照明器具、裏からまわってハリボテでできた、城のような背景。懐かしむ観覧者やお茶の間の人々の前で、一時代を築いた有名人が、また別の形で注目を浴びることになるとは。右手と左手で別人格をもつニャウとミャウ、あの時代、教育番組にそぐわない斬新な物言いをするパペットと時代の鏡のようなそしてお姉さんの二重人格が世間に受けが良かった。
 「では、このお姉さんのノウハウをゼロにします!!」
 改造人間プロジェクト、それは、科学による実験によって人間の当選者にどんな変化がおこるかを見守り、それによって人間の生活を支援しようというテレビ番組だった、これらは崇高なる生物、アンドロイドたちのための娯楽番組だった。
 「わたし……」
 踊り子お姉さんを明るい光がつつんだかと思うと、そのお姉さんのあたまに頭からすっぽりとはいる大型の被り物のようなものがかぶされたと思うと、お姉さんは、10秒としないうちにまたすぐに姿をあらわした、吊り下げられていた機械のかぶりものは上へ引き上げられて生き、実験は成功したとナレーターが語る。
 「私、どうやってパペットを……腹話術をつかったのかしら」
 どっとわらう観客、何がおかしいのか、それがこの時代のアンドロイド・ジョークである。人間がある特殊技能のノウハウを全てわすれてしまう。しかしここからが人間にとって救いのある展開、この番組の後編、ドキュメンタリー・パートである。彼女はそれから、徐々にノウハウを思い出していき、そして再び、世間からスポットライトを浴びる事になった。
「あのころの新しい気持ちを思い出したの」
 番組は、結末までは予想していなかったし、そもそも彼女にまた新しい職業を与えることまでは考えていなかった。そういう意味では、この番組のこのこの時代において唯一人間にとって救いのあるお話だった。

ノウハウゼロ

ノウハウゼロ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-25

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