短文まとめⅠ

Twitterに書いていた短い文章、散文詩をめざした何か、その他のまとめ。ほぼ自分用です。

焼けそうな午後の陽射しを浴び続ける白い腕。ポケットに入れた無数のビー玉を、コンクリートの上に散らす。球体のガラスに閉じ込められた色とりどりの質量が、跳ね、転がり、軽い音を立てる。打楽器みたいな音楽はすぐに止んだ。ビー玉たちは動けない。風もない真夏の午後に、ひとつ死だけが残された。


音のない白い部屋で真っ白なパズルのピースを順番に組み立ててゆく男の子ふたりのすらりと伸びた手脚とゆびさき


ねぬプラネットで眠るねぬたちは天使になる夢ばかり見るので目が覚めても自分のことを天使だと思い込んでいて、ついにねぬの中からほんとうの天使が生まれた


必要なものや買うべきものを書き出すことの意味が紙片の端から霧散してゆくような曖昧な生活と、テーブルの上で結露してゆく硝子のコップと、夏の眩暈


ほんとうに持っていた折りたたみ式の白い携帯電話で必死に祖母の連絡先を探すけれど見つからない夢の中のわたしがいた夏だった、コンクリートの塀と海が見えた


う、は三番目に産まれたのでう、と名付けられ、ウニと、ウシと、うみになって世界に溶けて、う、は死ぬまでう、であり続けたので、すべてを諦めてしまったを、がう、を妬むのも無理はなかったが、やさしいぬ、はいつでもを、を慰めたので、う、はぬ、の心だけはさいごまで手にすることができなかった。


すくった金魚から氷漬けにしていきました、透明な温度の中に鮮やかな赤と白と黒と黄金色が混ざり合って滲んでできた氷の層は息が止まるほど綺麗でした。


ほんものを信じている少年の美しさと儚さが光の粒子となって煌めいていた、真昼の校庭だった


夏の夕暮れ時に遠くで響く蝉の声と、少し冷えた風がそよぐ音だけを聴きながら微睡んでいるじかんの静謐さ


夜更けに終末のような鳥の声を聴いて吸い寄せられるように声の主を探しに行き二度と戻らなかった少年


何も考えていないくらげは、それでも、くらげは、きっと僕のこころを包み込むその手は、無意識のなかで僕を目指していて、くらげは、くらげは、僕のまなざしを受けていてるくらげであり、水槽のはしっこの昏い冷たさの中で、きっと虚無だ。


存在としてのくらげにほの暗い精神の澱みのようなぬるい物体を同期させることで得られる安心感のようなものがある
くらげの好きなところ、無口、浮遊、閉塞と自由のないまぜのような造形、ゆらぎ、きょむみ、
とうふの好きなところ、白さ、冷たさ、無口、押し込められて尚やわらかくあろうとする造形、きょむみ、


八月が終わってゆくね、美しくてみずみずしかった透明な八月の次には、美しくて寂しげな夕暮れ色をした九月がやって来るのだ
一年前の夏を閉じ込めた硝子瓶をいちども開けられないまま九月がやって来る、寂寞をつれてもうすぐ秋が忍び寄ってくる、その気配に飲み込まれる前に私は硝子瓶を灯台のてっぺんから投げ捨ててしまった、正しくあろうとすればするほど身体は言うことを聞かないと、泣きじゃくりながら海が揺れていた。


誰もいないドールハウスで密かに罪を繰り返した


人型レンジ、人型ポリ袋、人型ナイフ、人型さやえんどう、人型の国、人型観覧車、人型宇宙、人型のひと、人型ワッペン


「かわいそう、はやく逃げて」と云って小さな貴方はていねいに切り取った金のエンゼルを二階の小窓から解き放つ。春の空気の中をひらひらと金のエンゼルは、緩やかに、しかし確実に、やわらかな庭土をめざして落ちて行った。貴方が初めて自らの手で喪失を得たまばゆい日。


ガラス玉のようなたましいの美しい光線、水面もようが反射し揺らめいている、影は切り離されずに留まることを選んだ、影は、縁どられた球形をなぞるだけの機械


いいねしたユーザー、ユーザー、ユーザー、蜃気楼、ユーザー、ユーザー、ユーザー、斜めがけ


使われなくなった線路、逆光の鉄塔、さかさまの夕陽、群れから遠ざかる一羽のからす、揺れていないブランコ、手放した玩具が砂を飲む夜


立方体木星 球形体温 ひも状洗濯機 星型ピラミッド
ひし形神社 円錐そぼろ飯 液状歩道橋人型アルデンテ


逃がしたクモが自分という人間を愛していた可能性、恐ろしくて逃げ出した部屋に住んでいた人間がクモである自分を愛していた可能性。


「球形エビに冬は来ない」 の対義語は 「球形の麸は真冬の葬列」です


六月を折りたたむと、貴方の部屋の窓の形になるのですよ、と言ったひとが残していった温度を明日の私もきっと覚えているのです。
六月の折りたたみ方をしらないで育った少年が庭の噴水で恋を知ったその日、六月は手酷い愛し方でもって彼を狂わせた。


九月のさびしい薄暮のなかで揺れている草たちは、水彩画の静けさに焦がれながら灰色の川面を見ていた、川面に映る世界を見ていた、川面に映る絶望を。


ウミウシたちは一万年後の夢を見、カタツムリたちは古代の森を這っている


3Dプリンタで作った地球をクラス全員で宇宙に浮かべる日に熱を出して休んでしまったので、今でも私の作った粗末な地球が部屋のすみで自転している


3人の;は行方不明、隣町で噂話、地下鉄に乗ったのは≠、誰も覚えていないのだ、あの日2つしかないブランコを取り合った3人の;を、覚えている者は。二つの眼、猫は見ていた、何も知らずに雨の中を歩く猫のひたい、;の死体、同一人物ではあり得ないのです、と精神科医が言うのを聞いていた。
㎥は森のような水槽のなかで怯えている、気泡はなるべく小さく、静かに浮かべなさいと先生が言ったことをノートに取った、㎥のさいごの記憶であり記録である。


さみしいさみしいさみしいほこらで泣いてる神さま僕には手を繋ぐこともできない


りんごが林檎が落ちている、おちているリンゴ、それは貨幣であり獲物であり、森の中でいっとう弱い存在(そんざい)として、そこに在り続け、常にまなざしが支配している9月の森の中で、黄金色の風が吹くのを待ち続けている確かな林檎だけがそこにある。

短文まとめⅠ

短文まとめⅠ

  • 韻文詩
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-24

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