ドリームゲーム
ドリームボックスは無償配布、忙しい現代人のために、月々の利用料もなし、変わりにわが社は常に支援を欲しています。
こんな広告がインターネットに出回りはじめてから、はや8カ月がたつ。涼しい、カエルやセミたちも静けさを取り戻しつつある秋ごろの話。それで遊ぶことにきめたのは、SNSなどで誰もがそのゲームを遊んでいたからだ。僕は初めて、ゲーム機自体もそうだが、その時間、時代に流行する文化そのものにふれた。敷居は決して高くなかった。ドリームボックスは、ただ簡易的なアカウント登録を必要とするだけで、ドリームボックスをうちに置くときも、配送料も無料だし、ただコンセントにつなぐだけで手間いらず、だから試してみる事にした。あとの準備は、ヘルメットの形をしたコントローラーを頭につけるだけ、睡眠中にゲームをする事ができる、健康状態にも、特に弊害はないらしい。
「それでは、おやすみなさい」
毎夜毎夜、夢の中で自分を操作できる感覚、ただの明晰夢のようなものとも違った、それは空いた時間を好きに使えるという意味で、極上のアイテムだった、現代人にはどこにも逃げ場はない、例えばトイレ、たとえば移動時間、たとえば睡眠時間、それ以外に現代人の、どこに現実逃避の時間的余裕があるのだろう。もっとも肝心のゲーム内容は、特段すぐれたものではない、ただただ、夢の中で他のプレイヤーとお話ができるというだけだ、これにはいくつかネット上で説や陰謀論が唱えられていて、それによって個人情報やビックデータを収集しているという話もある。そして何よりプレイヤーには縛りが多い、匿名アカウントで、自分と全く違う姿のアバターを選び、他のアバターと、特定の場所、風景を選択する。まだ数がすくなく風景の種類は限られているが、その限られた3D空間の中で、プレイヤー同士がコミュニケーションをとる、もちろん仲良くなれば何度も会う事はできるが、夢の外の世界で会う事は禁じられている、規約違反だ。
「こんばんは、今日もあいましたね、睡眠時間、どのくらいですか?」
少年は女性型アバターに恋をしていた、彼等は毎夜、ある高原の開けた崖の上に待ち合わせをした、規約において、お互いのアバター、それの中身はどうであるとか、そういう事もふれてはいけない、規約違反ではじかれてしまう、ただ少年は、この世界に魅了されていた。夢を見ているだけで、自分が常に必要としている、仕事、宿題、友達付き合い、それ以外の場所で自分を磨く事ができる。
少年にとっては、相手が大人かどうかだけが肝心だった、少なくとも、相手は言葉の上では大人だった。
「また相談事でもありますか?」
いつも親身になってくれる、その正体が何であってもかまわないし、その代償に相手が何をもとめていたとしても安全は保障されている、しかし少年は気がついていた、“その人は、子どもだ”その人は、何もしらない、少年は、自分がその人より大人になるまで、ドリームゲームをやめる事も、この人と会話をする事をやめるつもりはない。
ドリームゲーム