第6話ー8

 3800兆の銀河団で形成された国家の情報網は、その国家誕生の日から増殖を続けていた。情報の世界は光速通信でつながり、国家同士のデータは共有できるようになっていた。
 また通信網も光速通信を使用し、常に何百パーセク、何千パーセク離れていようと、すぐに通信が可能となっていた。これが星間国家ジェザノヴァの強大で大規模な軍隊を結び付け、連携を司っていた。
 ところがジェザノヴァの版図の宇宙の北側宙域に位置する星間国家バジャラハ国の進軍による首星バエウの消失は、すべての通信網を狂わせていた。
 幸い、ネットワーク自体は、バエウを失ったところで消失するようなものではなく、光速通信によるデータ収集は可能となっていた。ただ首星の情報は一切入ることはなく、ジェザノヴァ軍は各方面軍団が戦闘を断続していたものの、軍省からの命令、首星の陥落が兵士たちへ深刻な心理的影響を与えていた。
 当の軍省総官ン・トハ自身が反重力エンジンの故障により自らが乗り込むクリスタルの軍艦が首星から一週間の位置までようやく航行することができていた。
 首星陥落から間もなく5日が過ぎようとしている。総官の焦燥は凄まじいものがあり、艦橋に座っていることができず、巨大なクリスタルの艦橋に大声で叫びかけていた。
「バエウの情報はまだなのか! 貴様らはたった1つの惑星の情報すらまともに把握できない無能者か!」
 円状に並ぶ機器を叩き、数百人いるオペレーターたちへ叫ぶ。
 これを若い少年がなだめる。
「閣下、皆必死なのです。そのようなお言葉はおやめください。皆、家族が首星に居るのは同じなのです」
 補佐官ベタース・ロマフは常に冷静だった。
 この少年の言葉にはさすがの総官もその勢いを失ってしまう。
 やり場のない焦燥感は彼女をクリスタルの艦橋を右往左往させていた。
「閣下、落ち着かれてはいかがです。時間は常に等しく流れるのが常。焦ってもなにもことは進みませんよ」
 妙に達観したところがある彼の言葉に、浮遊椅子へ腰を下ろし脚を組むトハ総官。
 そこへ沈静の意味も込めてお茶をクリスタルのカップに入れて差し出す少年。
 と、その時であった。
「閣下、バウエよりジェザノヴァ全域へ動画放送が開始されました」
 素早くその身を再び立ち上げるともちろんホログラムスクリーンに投影させた。
 ホログラムスクリーンは数百人いるオペレーターが全員見ることが可能なほど、広い艦橋の空中全面に広がる。
 無事でいてくれ。家族の心配するトハであったが次に映し出された首都の光景に、彼女はもちろんその場の全員が絶句した。
 いつも王族が国民に向けて顔を見せていた聖域とも呼べるクリスタルタワーのテラスに敵国の元首ゴーゴナが褐色の皮膚をクリスタルの乱反射に照らし出されて立っていた。しかもその右には王妃ン・ベート、左には執政官ン・メハが立っていた。ただし一糸まとわぬ裸体を露わにした姿でエネルギーの手かせと首輪で拘束されて。
 一瞬、トハは母と姉に何が起こっているのか分らなかった。
 美しい彫刻のような2つの裸体の真ん中に立つ、蛮族の王はじっくりと王妃と執政官の裸体を眺めたあと、眼下を見下ろした。
 そこにはジェザノヴァの首都の民たち、たまたま首都を訪れていた者たちが、黒い錆びた甲冑のバジャラハ兵たちに囲まれて集められていた。その数は2000万人を超え、複数のホロスクリーンで、王妃と執政官の母娘の恥辱の姿が映し出されていた。全員の眼に触れるように。
 しかもこの姿は光速通信網で3800兆の銀河団全域に中継されていた。
「貴様らが蛮族と見下した我らが種族が、貴様らの象徴たるタワーに立っている。皮肉ではないか、国王よ」
 と、ゴーゴナ元首が叫んだとき、民衆の中に1つのクリスタルで作られた柱がバジャラハ兵たちの手で運ばれてきて、クリスタルの地面に打ち立てられた。
 誰もが自分の眼を疑い、また顔をそむけた。そこには全裸にされた80代ジェザノヴァ国王がエネルギーの手かせて足かせでくくりつけられていた。しかも全裸で。
 一体、父の身に何が起こるんだ。何が起こっているんだ。トハは自問自答して心中はパニックに陥っていた。
 そんな中で見せられたのは、打撲のあとが痛々しい父の身体に這いずり回る無数の女たちであった。バジャラハ国の女たちで、全員褐色で筋肉質である。
 何人もが国王の白い皮膚に舌と手を這わせ、まるで拷問のようである。
 やがて肉体の反応で男根が大きくなると、それへ女たちは群がった。
 国王は耐えていたが口から甘美の吐息を漏らす。自らの国民の前で痴態をさらしていた。
 すると1人の女が地面に置いていたなめし皮の袋を手に取った。そこにに手を入れると細いミミズのような虫を取り出す。
 外へ出された虫も驚きからウネウネと動き回っている。
 するとそれを国王の男根へ静かに近づけると、尿道から入れ始めた。
 それは惑星ファンフォの南半球に生息する寄生虫であった。それに規制されると、激痛が走る。どんな穴からも入り、生物の身体の中で成長し、卵を産み、数を増やすのだ。
 それを尿道から入れられると、激しい痛みに甘美の声から今度は苦悶と激痛の叫びに国王は喉を枯らした。
 これを見ていたジェザノヴァの民は悲鳴と怒号を漏らす中、反してバジャラハの女たち、兵士たち、元首ゴーゴナは高笑いでこの拷問を楽しんだのだった。
 そこで耐え切れなくなった軍省総官はホロスクリーンを切ると、兵士たちへ大声を張り上げた。
「全軍に通達。前線を下げ防衛に必要な兵力以外をすべてアシュタグ星系へ集結させろ。もはや戦略など関係ない。首星を数で奪還する。バジャラハの全員をこの手で皆殺しにする」
 これほどまでの怒りに満ちたトハの顔など誰も見たことがなく、一瞬、全員が唖然としていたが、すぐに各方面軍へ通達がなされた。
 そして星間国家ジェザノヴァ史上にない最大の宇宙艦隊が編成されることになる。

ENDLESS MHTY第6話ー9へ続く

第6話ー8

第6話ー8

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-23

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