影踏み

気楽に読んでくれたら最高です。
感想をくれたら喜びすぎてひっくりかえるかも・・・。
素隠と優華をどうぞ、よろしくお願いします。

はじまり

人目から離れた森の奥、一つの大きな屋敷があった。
それは、願いを叶える店、として一部の人間達から知られている。
「もう、何ですか、この有様は………」
背の高い少女は腰に手をあてて溜息を吐いた。
辺り一面、書物やら筆やら着物の帯などが散らかっている。
その横のソファーで寝転がっている女性がいた。
顔に被さっていた本を退けると目をすがめて何か、言いたげだ。
「………何ですか、言いたいことが有るなら聞きますよ」
素隠は散らかった物を拾う。
優華は立ち上がって素隠の傍らに立った。そして、手に持っていた本を指さす。
素隠はそれを覗き込む。   「……………」
沈黙がおちた。
本には、この屋敷の紹介が載っていたのだ。
しかし、よく見てみると場所の位置が全く違っていた。
建物もよく見てみると似てはいるが全く別の物である。
「………願いを叶える店、ですか……」
素隠が気になったのはそこに書いてある一文であった。
「なんでも叶う店、あなたも一度訪れてみては?無料で叶えて差し上げます………ねぇ……」
優華はその本を机の上に置いた。 素隠は知っている。優華が目を伏せて鼻を摩る時は考え事をしているってことを。
………大抵、録なことがないんだけど。
その時、玄関の扉が開く音が聞こえた。
素隠はバタバタと玄関に向かう。そこには見知らない人が立っていた。金髪の長い髪、透き通るような白い肌、エメラルドの宝石を思いおこす瞳、人形のような少女だった。
「お客様ですね?どうぞ、お入りください」
素隠はそういうと少女を従えて客間に入った。
それからすぐに優華が入ってきた。
「…………あなたがここの主人なのか?」
少女は前触れもなく言った。
優華は微笑んで頷く。
少女は、そうか、と言って俯く。そして勢いよく顔を上げた。 「……私はセベルス・クラウ。西洋からやって来た者だ。あなたに頼みたいことがある」
セベルス・クラウは鋭利な視線を優華に向けた。
優華は気にする様子もなく目を細める。
素隠は二人の前にお茶を置いた。
「………まずは話を聞きましょう。あなたは知っているでしょうけど、叶えてあげる代わりにそれに釣り合ったものを頂く、それが条件よ」
「わかっている」
セベルス・クラウは顔をしかめて頷いた。

依頼

素隠は部屋の隅に立ち、二人の会話を聞いていた。
優華はお客の前では口調を変える。
何でかは教えてくれないが………。
話からすると、セベルス・クラウはなんでも、お金持ちの貴族出のお嬢様らしい。で、依頼というのは、行方不明の彼女付きの使用人を捜してほしいとのことだ。それはどう考えてもわたし達の仕事ではない。
そういうとどうも、普通の行方不明ではないそうだ。
セベルスクラウが取り出したのは一枚の写真、それはさっき、見ていたこの屋敷に似た建物が写っていた。
「ここに行ったっきり戻って来ないのだ。他の使用人が間違いないという。私はここに行った。そしたら、そのかたは来ていないというんだ。おかしいだろ………」
素隠は優華を横目で見た。
相変わらず、目を細めて笑っている。
嫌な予感が…………
素隠は静かに部屋の扉のところに近づく。
「要するに、その屋敷の調査、および使用人の捜査が依頼内容ね。で、その使用人の名前と容貌は?………うん、ェサラっていうのね。で、これがその娘の写真ってわけ。いいでしょう。引き受けましょ。まず、この屋敷の調査を素隠にやってもらうわ。ちょっと、なに、逃げようとしてるの、お願いね。…………私は私でやることがあるから」
優華は真剣な顔をして立ち上がった。
「セベルス・クラウさん、あなたも素隠と一緒に行動してもらうから、よろしくね」
優華は彼女の返事を聞かずに部屋を出て行き、素隠の耳元で気をつけてっと言った。

調査

素隠はこっそり溜息を吐いた。
(……さあて、この状況をどうしたらいいのでしょうか)
素隠はちらっと横を見る。
相変わらずセベルスクラウは無表情で話だそうともしない。
(まぁ、いいんですけどね)
「あの、セベルス・クラウさん、では、早速、あの屋敷の聞き込み調査をしますが、不思議な噂とか、他にも行ったっきり帰って来ないという方々について知りませんか?」
素隠は彼女に話始めた。
彼女は一つ頷き、そして口を開いた。だが、そこで少し、止まった。
素隠は怪訝に思い、首を傾げる。
「どうかしたのですか?体調でも悪いとか……」
セベルス・クラウは首を左右に振った。
そして言う。
「私のことはセベルスと呼んでくれて構わない。それに、敬語を使わなくて結構だよ。君は私としばらく供に行動しないといけないからね」
彼女は無表情のまま言った。
素隠は苦笑する。
「………じゃあ、セベルスさん。わたしのことも素隠と呼んでください。それに、この口調については基からなので気にしないでください」
セベルスは目を見開いた。
「………そうなのか、私の周りの女性は結構くだけた口調をしているからね、驚いたよ。この国の人は結構、礼儀作法がなっているようだ。さっきの女性も優雅だった」
素隠はただ微笑むだけで何も言わない。
(あの人が優雅ならほとんどの人が優雅なんだろうな……)
素隠はこっそり溜息を吐いた。


そして素隠とセベルスは店を出て屋敷の調査を始めた。調べ始めて数時間が経過した。行った事がある人に聞くと皆揃って絶賛だった。
恋人ができたとか、事業が成功したとか、病気が治ったとか………
素隠は首に下げている水晶を握りしめた。
「未だに収穫は零。皆、願いが叶ったって喜んでいるな。思うようにはすすまないものだ」
セベルスは腕を組み、前に進む。素隠はその横に肩を並べて歩く。
「……………セベルスさん、あなたはどうしても、エリスさんを探し出したいですか?」
素隠は彼女の目を見て言った。
セベルスは怪訝に思ったが歩調を変えないで言う。
「……もちろんだとも。そう思わなければ君の店に行かない」
「じゃあ、なぜ、私のところに来たんですか?有名な屋敷に行けばいい話でしょう……」
そこでセベルスは止まった。
「君はいったい何を言いたいんだ?あの屋敷で居なくなったんだ。そんな所に行っても意味などないだろう」
素隠はセベルスの目を見ている。しかし、セベルスは気づいた。素隠の顔色が悪いことを。そして、素隠は右手で両目を覆った。
「……………すみません、ちょっと休んでいいですか……?」
素隠はふらつきはじめた。セベルスは慌てて素隠を支える。
そして近くのベンチに座った。
セベルスは素隠をベンチに寝かせ、ハンカチを水で濡らしてきた。そして、それを伏せた瞼にのせる。
セベルスは難しい顔で素隠をみやる。
素隠を支えた時、重みを全く感じなかったのだ。
素隠は口を開く。
「すみません、迷惑をかけてしまって………」
セベルスは複雑な心境を顔に出さないように努めて首を左右に振る。
「いや、気にしていない。大事がなくてよかった」
素隠は苦笑した。
「それ、本気で言ってます?内心ではわたしについて聞きたいことが多くあるでしょうに……」
セベルスは呆然とした。
何を言っている?
「何を言っている?………ほら、やっぱり」
素隠は相変わらず笑っている。
セベルスは正直に聞いた。
「なぜ、私の思っていることがわかるんだ?」
素隠は起き上がった。
「…………わたしはですね、人の心が読めてしまうんですよ。もっとも、優華さんの屋敷から全く出ていなかったので気づいたのは半年ぐらい前ですけどね。あの店にいる間や優華さんと一緒にいるときは聞こえないんですが……ちょっときついですね。人間は欲深い生き物ですから……」
素隠は瞳をかげらした。そして言う。
「………今まで聞いた人たちは嘘を言っていませんでしたよ。ただ、願いというのが……。例えば、恋人ができたと言っていた人、あれは好きな人の思い人の存在を消したんです。そしてその人のように振る舞った。そして得た。他には、事業で成功したという人はそのアイデアを盗んだんです。そして考えた人からはそのアイデアを記憶から消したそうですよ」
セベルスは唖然とした。
「…………じゃあ、君はそれを黙っていたというのか?」
素隠は小さく頷いた。
セベルスは立ち上がって素隠を睨んだ。
「君は手がかりを見つけていたのに私になぜ黙っていたんだ!」セベルスは肩を怒らせ、目を吊り上げる。
一方、素隠は相変わらず笑っている。しかしそれはどこか寂しそうだった。
「もし言ったとして、セベルスさんは信じます?こんな、気味の悪い話を……。それに、わたしは別にあなたのために動いている訳ではないんです。すべて、優華さんのためなんです」
素隠は再び、立ち上がった。
「さぁ、無駄話をしてしまいました。真相がわかったんですから店に戻りましょう」
素隠はさっさと歩きだす。
セベルスは舌打ちし、その後ろを歩いていった。

嘘と真相と優しさ

「優華さ?ん、今、帰りましたよ?」
素隠は玄関で大きな声を出し、呼び掛けた。
返事はない。
二人は客間に向かった。
そして、そこには大量の本で部屋が埋まっていた。
二人は呆然と突っ立っていると何処からか声が聞こえる。耳を澄ましてみるとはっきりと声が聞こえた。
「………素隠、帰って来たのね。今から、例の屋敷に乗込むわよ、早くしないとせっかく創った時空空間が絞まっちゃうわ。さっ、セベルス・クラウさんも」
そして二人は何か強いものに引っ張られるようにして宙を浮いた。そして、次に目を開けたさきには見たことのない場所にいた。
「あっ、ここ、例の屋敷の中だ……」
セベルスは呟く。
優華は腰に手をあて口を吊り上げる。
「…………やっぱり、ばれちゃったわね?、じゃあ、二人とも、走るわよ」優華はそういうと駆け出した。二人はそのあとを追いかける。
後ろからは奇妙な音が聞こえた。
「二人とも、絶対に振り向いたらだめよ。あともう少しだから」
素隠は、はいっと返事し、セベルスは、ああと言った。
そして前方に眩しい光が見えた。その場所に突っ切ると暗かった部屋が一変し、そこには緑の樹木で埋め尽くされていた。
「なんなんですか?ここは……」素隠は辺りを見回す。
優華はセベルスに向かって言う。
「あなたはここがどういう場所か、わかるんじゃない?」
セベルスは絶句した。
素隠はセベルスをみる。心の声は聞こえない。
しかし、優華は意味ありげに微笑む。
と、そこで人影をみつけた。若い二人の男女であった。両方笑っているのに男は顔色が悪い。 別の方を見ると、無駄に身なりの良い男が立っていた。男は数人を従えて辺りを睨んでいる。そして時折怯えた顔をする。
他にも女、男、大勢がいた。どれも見たことのある顔触れだ。
素隠は優華の裾を掴んだ。
優華は微笑む。
「…………ここにいる人たちは皆、願いを叶えてもらった人たちよね。これは近い未来、起こることになる未来。自力で得たものは納得がいく。気に入らなかったら変えることもできる。でも与えられたものは変えることはできない。………一生ね。そう、これが代償。そして、ここの主人があなたたちを遣って私達を呼んだんでしょう」
その時、背後から風を感じた。素隠は優華と自分を覆うように光を生み出す。直後、飛んできたものが静止した。それは銃弾であった。
セベルス・クラウは顔を青ざめる。彼女の背後に捜し人、エサラがいた。
セベルスはエサラを振り向いた。
「エサラ!話が違うじゃないか!?」
セベルス・クラウはエサラの肩を掴む。
エサラは顔をしかめた。
「……なにが違うんです。私はあの方の言い付けを伝えれただけです。それに………」
エサラは優華達を見た。
「まさか、あなたがここに来るとは思いもしませんでしたよ。いつから気づいていたんですか?」
優華は素隠を後ろから抱き寄せる。
「最初から…………といいたいけど実際はちょっと違うわね。この子がセベルス・クラウの心を見ちゃった後かしら。店を出た、あの時ね」
素隠は無表情。
優華は素隠の頭に顔を乗せる。
「妹さんが人質なんでしょ。彼女の本当の依頼を果たしに来たのよ、だからこの屋敷の主人に会わないといけないわ……」
エサラはかしこまって一礼した。
「あの方は今、この国にはおりません。お帰りになりましたら改めてお招き致しますので今日のところはお引き取りください」「さっきも言った通り、私は彼女の依頼を果たさないといけないのよ」
優華は目をすがめてセベルス・クラウを見る。
するとエサラは分かりましたと言って右手をあがる。そして一振りすると小さな女の子が現れた。
「この子はお返しします。要件は終わりましたので…。では、また……」
そういうとエサラは闇に飲み込まれるように消えていった。
小さな女の子は目を閉じている。
セベルスは駆け出した。
と、そこで
「我、ここに非ず。彼のものを閉じ込めたまえ」
素隠はそう唱えると女の子の周りに結界が張られた。
見えない壁で阻まれる。
「なんなんだ、これは……。おい!素隠!さっさとこれをどけろ!」
セベルスは素隠に向かって怒鳴る。
しかし、素隠は悲しそうに微笑むだけだった。
セベルスが訝しんでいると背後から何か、崩れる音がした。
振り返ってみると妹の姿が砂に変わりつつあった。
セベルスは見えない壁に手を打ちつくて必死に阻む壁を壊そうとした。だが、妹の姿は跡形もなく砂になってしまった。
セベルスは崩れ下りる。
「………な…んで、なんなんだよ、なんで邪魔をしたんだ!素隠!!」
セベルスは泣きながら叫んだ。
しかし、素隠は何も言わない。
そうしている間に辺りが歪んだと思うと優華は指を鳴らした。すると、場所は元の店に戻っていた。
そして、セベルスは素隠に近づこうとし、歩きだす。
しかし、そこで素隠は目を閉じたと思うと、後ろに倒れてしまった。それを優華は静かに抱き留める。
顔を覗き込むと大量の汗が吹き出ていた。
優華は素隠をベットに横たえるとセベルスを連れて中庭のテラスに出た。
お互い、無言で椅子に座る。花びらがまじった暖かい風が頬を撫でる。
「…………あなたの妹さんは既に亡くなっていたわ」
優華は何もないところに目を向けて言う。そしてさらに
「あなたもわかってたことでしょう?」
静かに微笑んでセベルスを見る。
セベルス・クラウは無言で庭の桜の木を見つめた。小さく揺れて、花びらが舞落ちる。
優華は続ける。
「あなたの妹さんは、あなたがここに来る以前には、もう亡くなっていた。あなたはあの屋敷で妹が甦れるように願ったのでしょう?」
セベルスは大きく息を吐き出す。
「………それも、素隠から聞いたんですか?」
「いいえ、私は何も聞いていないわ。あの子は私に従わないもの」
優華は小さく笑っている。そのことにセベルスは驚いた。
「でも、あなたは私の本当の願いを知っていただろ?素隠が言わなかったらどうやって……」
優華は何も言わない。
私は一度首を左右に振る。
「まあ、今言うことじゃないか。あなたの言った通りだよ。私は願いを叶えてもらう代わりに」
「私のところにきた、と……。ふふふ」
優華はセベルスの言葉を引き継いで言う。そして、楽しそうに、いたずらっぽく笑う。
「本当は、素隠だけを連れてくるように言われていたんだが………、まさか、あなたも来るとは思わなかった」
セベルスは頭を抱えてうずくまる。
優華は笑うのをやめる。
「私の、大切な義娘に手をだすとはさぞ、能のない愚か者なんでしょうね………。そして、あなたも………ね」
セベルスは驚いて優華をみる。今までとは違い、表情が抜け落ちている。まるで、心をもたない、人形のように。
優華は無表情のまま告げる。
「まだ、わかっていないようだが、お前がやろうとしたことは、この世の理を犯すことだ。あの子はそれを止めようとした。自分を犠牲にしてな…」
彼女の口調は急に変わっていて
「あのままにしていたらお前の妹は、いや、妹の姿をした化物はこの世の理を脅かすことになる。そうなると、原因の元であるお前は上の奴らから裁きがくだる。それを止めようとした結果だ。お前がああだこうだ言える立場じゃない」
「……………」
優華のあまりの言いように、そしてあまりの内容に二の句がつげなくなる。
じゃあ、何も言わなかったのは、そして、痛みをこらえるような、悲しげな笑みをしたわけは………
セベルスは顔を歪めて打ち萎れる。
「………悲しいほどに優しいあの子は、優し過ぎるがゆえに狂ってしまう。たかが人間、一人なのにな……」
優華は顔を一変させ、満面の笑みを浮かべる。それは気持ちいいほどに。
「と、言うわけだから、今度からは気をつけてね。………まあ、もうここに来ないほうがいいわ……」
優華は立ち上がり店の中に入っていった。
セベルスはうなだれていた。



そして、歯車が廻りはじめた。

影踏み

影踏み

「人は何を思い、生きていくのか。私はそれが知りたい・・・・」 願いを叶えるお店に女主人、優華と一人娘、素隠が暮らしていた。 いろいろな人と摩訶不思議な事件にかかわっていく二人はこの世とあの世の狭間で不思議な力を駆使して解決していく。 人離れした美貌をもつ優華に振り回されながらも日々を楽しく過ごす素隠は一人、暗い影をもつ。 人と触れ、成長するちょっと切ない物語。

  • 小説
  • 短編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-03-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. はじまり
  2. 依頼
  3. 調査
  4. 嘘と真相と優しさ