能無しの家
赤い家があった、彼はその家でただ一人いすわっていて、毎日絵をかいていた。
「なぜ僕はここにいるんだろう」
手洗い場には鏡がない、風呂場には安らぎはない、ベッドには生活感がない、きれいすぎるほどきれいで、それゆえに彼はそこに自分の居場所を見いだせない、むしろこけむしていて、ひびわれていて、ひどく自分に汚染されたように見えるときもある、それはたまの来訪者がくるときだ、来訪者の中には、何度もくるものもいて、確かに年を取る、だが彼は年をとらない。
「なぜ僕はここにいるんだろう」
そこはその場所にいるその人間にこそ理由があるのだ、そこは廃墟だ、鏡は割れている。そこにくるのは彼を茶化しにくるものだろう、彼は亡霊だ、そのことに彼は気づかない、だからこそ、彼は自分が能無しになった理由に気づかない、彼は成長しない、その代わりに、年老いるという事もしらない。
能無しの家