第1話

「入学おめでとう。」
春の陽射しが暖かくなり始めた頃だった。
この前までとは違う制服に身を包んで見慣れない体育館に響く声に顔を上げる。
顔を上げた先にいる生徒は中性的な男の子の様にも見える。
「生徒会長の松雪界です。」
男の子としては少し高い声。
そもそも女子校だから先生じゃなければ男の人がいるわけないか。

「あっ…」

壇上で話をする生徒は、今朝少し早めに着いた校舎を見てる時に見かけた人だった。
髪の毛が長くて、何の意味があるのかわからないくらい短いスカートを履いた女子生徒と言い合いをしていた気がする。
そんな事を思い出しながら生徒会長と名乗った生徒を眺める。

長かった入学式を終え、ぞろぞろと指定された教室に戻る。
体育館の横からさっき聞いたばかりの声が聞こえた。
前を歩く先生の目を盗んで少しだけ覗き込むとそこにはさっきまで壇上で話をしていた生徒会長と今朝見かけた髪の毛長い女の子がまた言い合いをしているのが見えた。

「……進級早々に遅刻ってどういう神経してる?」
逃げないように手首をしっかり握り話をしている。
近くで見るとかなり細身の生徒会長より更に華奢に見える女の子は着ているカーディガンがゆったりしているからだろうか。
「まおが遅刻しようが界には関係なくない?」
気怠そうに「離してよ」と生徒会長を睨む。
その態度に嫌気がさしたように腕を離しその場を去る。

(あ、まずい)

思った時には遅く、2人の先輩と目が合ってしまった。

「新入生か。迷子?」
さっきまではずっと冷たい目をしていた生徒会長は私を見つけた途端に優しく笑う。
「何組?送るよ。」
頭を優しく撫でられ背中を押される。

(手がとても温かい人だ)

これが会長と私の出会いの話。
そして私の人生が少しだけ変わった瞬間の話。

第1話

第1話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted