こじあけられた異世界。
俺はうろこが生えているから、いつまでたっても、本当の自分の姿をさらけ出すことができない。シリコンのかわを剥いで、魚のうろこのような皮膚をもった人間型の人間が、高層マンションの一室、トイレの鏡をみて考え事をしていた。彼には、数日前から声が聞こえていた。彼は自分の本当の親をしらない、今、知的で聖人君子のような科学者に保護されていなかったら、普通の学生として周りに溶け込むこともできなかっただろう、彼は脱いだ皮をみつめた、それだけみると、いつもの“持て男”の片りんもない。彼は本当の自分をかくしながら、その声を信じた、一週間、二週間、それから何か月もの間を、神経をすり減らして待っていた。
“もうすぐ地底人があなたを助け出しにいくから”
助けは来た。彼とまったく同じ姿の人々が地底から地上に交渉ごとをもちかけ、申し出た。もちろんいくつか兵器はもっていたが、どれも原始的なものだった、彼等は自分たちがかつて“妖怪”と名付けられていたことも詳しくはなしたし、それについて、自分たちの側の歴史と、人間側の歴史のすり合わせをしたレポートを人間側に手渡した。
それから一年後、たいした変化は起こらなかった。一番変化がおきたのは、インターネットの世界だった。地底から湧き上がってきた住人は、すでに地上にいたその国の言語、文化、歴史、風土を学んでいて、本人たちよりもこの国の事情に詳しかった。変化などおきていない、けれど変化に気づく事はできる。彼等の存在は、そんな風に一目おかれて畏怖され、あるいは人と距離を置いて確立していった。彼らが確立していったものは、多様性だった、
地底人は、うろこでおおわれたからだをもっているし、弾圧されてきた歴史もあるし、ただ、彼等はインターネットの世界で、その文化への多大な影響と功績をのこした、たとえば文学、たとえば音楽、たとえば宗教、起こるべくして起きたことだ、彼等は別の神をあがめ、それぞれが独立したいくつかのグループにわかれて団結して活躍した。それは某国人のあこがれのまとだったが、だれも彼等にはなれなかった。
こじあけられた異世界。