つぎはぎくだん。

つぎはぎくだんをしっているか、近頃ネットの掲示板界隈をさわがせているやつ、俺は何度かみた、というより最近もみたばかりだ。その話をしようか。この話、知らない人のために補足をしておくと、最近掲示板発祥でSNSだとか、ブログとかで話題になっているんだ、“救世主”くだん。くだんっていうのは昔からいる妖怪で、この国での古い言い伝えや文献にも登場する、言い伝えでは、“災いを知らせる”なんて言われているが、今回流行ってるくだんは少しちがう、容姿こそ似ているところはあるが、“つぎはぎくだん”って名前の通りで、そのふるまいや、悪さ、予言の内容も違っている。今度現代に現れて、噂を起こしている件は、昔とは違って、災害の予言はしない、いいつたえでは予言のあとすぐ死ぬはずだが、今度のはそれもちがう。すべてが、正反対なのだ。

 俺のくだんとの一度目の出会いは、雨降りの交差点で、人通りが多かった、その人ごみの中、まるで浪間からのぞくみたいに人込みの揺れの中にそいつはいた、つぎはぎ縫い目の付いた服をきた、うし頭のやつだった。まるで子供の書いたラクガキみたいに、輪郭のふわふわした、荒い存在で、そこだけ二次元のようにうきでていて、それは通勤途中だったから、自分の目がおかしくなったんじゃないかと思った。顔はそんなで、オーラのようなものもそんな感じだった、やつのある種の気配、そんなようなものが異常で、空間がゆがんでいるように感じた。なのに体は人の形、体だけほかの人間と同様、人込みに溶け込んでいた、しかもそれが、女性だったので俺はたじろいだ、きれいな肌艶をしていた。

 二度目の出会いは、会社の、むかつく部長の後ろで、俺が彼のパワハラに耐えて、いらいらしているときに、例の、体だけ女性の姿で腹踊りをしていた、小躍りだ、どう考えても笑わせにきていた、そこではじめて“皆には見えていない”と俺は覚った、だってそうだろう。そうでなければ、大掛かりなドッキリだ、そんなドッキリをする会社なんてこの国にはない、そんなのは常識だ。俺でもわかる。

 三回目は、夜中眠れず落ち込んでいた時だ、趣味のボカロ曲作成中、悩んでいた、それは昔からあることだが、自分の趣味や、自分が真剣にやろうとすることには、トラウマがつきまとう。昔からそうだ。昔、家族と同居していた中学生ころまで、三人兄弟で一番不出来と言われていた自分は、それによる重圧に自分のすべてが否定されるような感覚をもっていた、その時もその、頭痛に悩まされていたんだ。俺はその頭痛の中少しの間目をつぶった、すると、瞼の裏で、いつかのように、まるで空間がひずんだように感じた、すぐに眼を開けてモニターをみた。
 くだんはそのとき、PCモニターの中にあらわれて、いつかのように雑踏の中の景色の中にいた、それはデータ作成中のソフトウェアの上から勝手にネットブラウザーが立ち上がってからのこと、画像データか映像データか、はっきりとわからないまま、あの時と全く同じ景色がながれ、次には、部長のそばで小躍りするやつがあらわれた、俺は叫んだ。
「つぎはぎくだん!!」
 次の瞬間、俺は目を覚ましていた、寝ていたことにそうして気がついた。よだれをたらして腕組みをして、顔を前にかたむけて、椅子のせもたれをささえにしてねむっていたらしい、われながら器用なものだとおもった。時計をみると朝の4時、その瞬間、ビビビときた。
「これならできる!!」
頭痛は消えていた、実際作業はさくさくとすすんだ。俺はそのとき、昨夜見ていた夢をおもいだした、くだんは、俺の記憶の中にさかのぼって登場して、みおぼえのある畳の間で、兄弟の食事中、うずくまる、いじける俺に向って言った。
「はっきりいわれてよかったじゃない、半端に才能あるっていわれてたら、あんた家族を愛してしまったよ」
この話は俺にとっては特別でも、誰かの役に立つものかはわからないが、面白いだろ、つぎはぎくだん。

つぎはぎくだん。

つぎはぎくだん。

夢のある妖怪

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-20

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