呪印

 閉じた鍵の焼き印。少年は小さなころから背中のそれに気がついていた、両親に尋ねるわけにはいかなかった、彼の両親はとても厳粛で、家の中で妙な事がおきたら、隠すか、もしこれが人につけられたものなら、大ごとにされてしまう、だから黙っている事にしたのだ。

 少年はいつからか、その呪印の能力に気がついた、背中がうずくとき、少年はどんな人間をも説得する事ができる。その代わり、少年は、今自分がてにしている何かを対価に渡さなくてはいけない。いだけど少年はそれとこれとをこじつける事をきらった。つまり原因と結果は少年の憶測で、仮説でしかない、それが危ない事だと感じていた。だから少年は、中学から、高校に上がっても人に話すことはなかった。親友と呼べる人ができるまで……。

 親友はできた、同じクラスの、いつも窓辺にいる青年、彼はいつも憂鬱な顔をしていた。自分もその顔をしていいのだと気づくと楽になったし、周りに人間が増えていった。もともと冗談は好きだった少年だったが、必ず誰かを傷つける自分の冗談が嫌いだった、親友を見ていると、ユルイ冗談が思い浮かぶから好きだった。ただ、もう少し、どこかでさらに近い存在になりたいと思っていたのだ。
(そうだ)
 あるとき、思いついた。少年はすでにその原因と結果を別物だとおもっていたし、才能だと思うことでごまかしていた。だけど親友のためにその“魔法”を使いたいと思うときが、必然的に訪れたのだ。
 
 親友は美術部の部長だったが、余りに不真面目な生徒がいて、それだけならまだしも、他の生徒の邪魔をしたり、いたずらをしたりしていた、部長として、親友は厳しくいうのだが、それでも聞かない、それは二人組で、彼等もまた自分たちの事を親友同士という認知があるらしい、友人の形など、色々とあるものだ、それはある意味、好きにしたらいい。だけど彼等はわざわざほかの人に当てつけのように、いつも美術部の教室の後ろにいて、廊下を通りがかりの先生や教師を、窓ガラスを急にあけておどかしたりする。
 親友とは、何だろう、あの人たちは、とても卑屈だ、アンニュイな雰囲気をもつ、少年の親友とは違って、本当の卑屈に陥っている、きっと、仲良くしても意味のない人たち。だから少年が説得をする決意をした。ある日、少年自身のサッカー部を、遅れることわりをいれて、親友を救う事にした。
 「俺に任せて」
 夕方にそまる教室、古い柱時計、シミや年輪の見える木の床、ガラガラとあけると、美しい風景に、とてもにつかわしくない、ぎゃあぎゃあと騒がしい例の2人組が一番後ろの椅子にこしをかけてゲームをしていた。少年は親友に、任せておけといって、彼等を説得する決意をした。背中がうずいた、だから絶対に大丈夫だと思った。
 「なんでお前がそんなこというのか」
 「お前は関係ないだろ」
 説得はできなかった、少年の人生において、そんな事は初めてだった、少年には、説得できない人間はいない筈だった。だからこそ、教訓じみていた。アドバイスや説得は、聴く耳を持つ人へのアドバイスかどうか、は大事だ。少年は彼等のほほと掌の呪印が、一瞬瞳に映った。彼等は聞く耳を持たないわけじゃなくて、ある焼き印によって、人の言葉を聞く事ができなかったという事だろうか、少年は一日考えたが、答えはみつからなかった、夕食後、風呂場で鏡をせにして、首だけよこをみて覗くと、なんでなのか、昨日まではあったはずの焼き印、その焼き印が気がつけば消えていた。余にゆう妄想の類。
 「やっぱりそうか」
 少年ははじめてこじつけた、この出来事があったから、自分で伝えるべきことは、自分で伝えるべきだと、友人とともに長い時間をかけて、卑屈な彼等と対峙する覚悟をした。

呪印

呪印

ファンタジー風。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-19

Copyrighted
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