楽園星スタジオ

 真っ赤なスカーフに真っ赤な目、真っ赤な髪の毛、赤色のレンカ。大学のサークルの旅行で、取材がてらに遊びに来たのは楽園スタジオ。彼女は今年で20になる、好奇心旺盛で、それでいて周りに気配りのできるムードメーカー。成人式を終えて少し変わったことも経験してみたくなったのだ。それは非日常的な経験への希望をもった挑戦だった。あるいは普通の人間が体験できる日常とは違った、非日常といって全く正反対ともいうべき日常と地続きの非日常への興味だった。
 “半仮面の楽園”という惑星リゾートが月の衛星軌道上にあった。
 そこで生活するうちは、ある欲求を半減させる仮面をつけなくてはいけないというルールがある。それがその楽園の素晴らしい景色、趣味に興じる人の快楽、そして“何もない時間”や“退屈”をより良いものにさせる、欲求を抑える事による欲求の純化。それがその星のルールであり目的。星は、そこに住む人、旅行者、全ての人間を含めたリゾート施設なのだ。犯罪も少なく治安がよく、皆穏やかな顔をしている、楽園星と呼ばれる所以がそこにある。
 “3泊4日の予定です” 
 サークルの代表は、広告でそんなキャッチコピーで惑星をアピールする。まるでどこか、地球にかつてあったリゾート施設を彷彿とさせる大自然の数々、ここに住む老人たちの穏やかな顔、そして誰もが顔の半分を覆う“半仮面”をしている。それはこの星の一番重要な法律によって定められている。
 “欲求半減の仮面”
 仮面は、それぞれ好みのデザイン、レンカは、やはり真っ赤な仮面、かと思いきや黒色の仮面を選んだ。そしてサークルの総勢20人はレンカのもうひとつの顔を見た。
 “レンカは、暗い”
 そこにいる間は、そこにあるルールに誰もがしたがう、その生活で客も住民も、誰もが自分自身の心の中で一番大きな欲求をにふれる、それは自動的に“半仮面”によって検出され、半減される。このリゾート星の運営、管理者によると詳しいシステムは企業秘密ではあるが、“誰もが、誰かにどう見られたいか、というところに最大限の欲求を持っている”という、企業理念によって過度に分析されたシステムがあり、仮面は欲求を検出すると、それも独自のシステムによって、少し力を抜くために欲求を半減させる。この半仮面をつければここは楽園になる、これがこのリゾートの星としてのポリシー、仮面に施されたプログラムらしい。
 レンカはその楽園にきてからというものの人がかわったようだ、いつもの活発さはなかったし、むしろ暗い感じがしていたし、いつもより落ち着いているともいえた。だがやはりいつもの通りのところもあって、気配りをしていた、それは欲求からくるものじゃなく、彼女の人のよさそのもの、サークルには男性がいなかった。レンカは普段から、男性がいてもいなくても活発にムードメーカーだった、サークルのみんなは彼女の異変を察知していた、それが半減してしまったということは、普段のそれは“彼女の欲求”。
 彼女と一番親しい親友のマイコは、むしろ真逆で、いつも清楚なのにここにきてはっちゃけていた、仮面は花柄で、いつもよりみんなとしたしくなっていた。服装もワンピース、いつもスカートすらきかない彼女が、南国風の星の海辺で、みんなと一緒に毎日泳いだ。はにかんだ笑顔を、サークルのみんなの前で見せたのは初めてだった、レンカはノートに彼女の笑顔を模写してイラストを見せた。彼女はとても喜んだ。
「私も少し大人に鳴れたかな?」
「そうね」
 はっちゃけた彼女は、これまでレンカの前でしか見られなかった。仮面の力といえど、それは彼女の努力によるものだろう。レンカは、そんないつもとちがうマイコを後目にみんなに気を使いながら、毎日昼頃、サークルのみんなと別行動で、この星のなりたち、そして星の運営管理者のうわさを聞いて回っていた。ある意味彼女だけが真剣にサークルの目的を全うしていた。彼女は旅行中ずっと気にしていた、自分の明るさは“自分の欲求”だったということ、“皆にそうみられたい”だけだったという事。もしこのリゾートの言い分が本当ならば……という条件つきだが。それからマイコがみんなの前で普段の自分をだせるようになったというはうれしい。皆とこれからずっと仲良くやれるか?そのことは確かに気になったが、レンカがこの星にきたのは、この“惑星探求サークル”の目的のひとつにそった目的で、そのサークルの目的を全うするところは、レンカの普段の真面目さとはズレはなかった。この島のうわさは、宿泊していた旅館の、仲良くなった謙虚な仲居さんからきいた。
「昔々、月でとても大事にされていた老婆がいて、そのお孫さんがこの“半仮面の楽園”の発起人で、現在の運営管理者。老婆の死が受け入れられず、保養地をつくったのですが、そこをどうせなら、という事でリゾート地にしたんです。その人はいまも老婆が信じていると思い続けていて、仮面をはずすと、いくらいっても老婆の死を受けいれられない、どんな医者に見せても、機械化した脳を取り換えても無駄で、仮面を外すと、二重人格のように、老婆を演じます、老婆は月で有名だった慈善事業化、月のありとあらゆる場所の住人にも、たった一人の孫にも愛されていた。楽園とは言われていますが、そのお孫さんは、今も老婆の死をうけいれていなんです、彼は、今自発的に、そのことを認識するために、この星の住人と同じくここに住み、いつもは仮面をつけているんです」
 仲居さんにつれられて、レンカはこっそり一日だけその人を町で見かけたことがあった。和服をきて、星をみて佇んでいた、豪邸に住んではいたが、どうも偉そうな態度をとっている風に見えず、病弱そうに見えた、レンカは、旅行中よるになると一人、眠りそうな頭ながら、わいわい話す女子の傍らで布団にはいり、いつもより暗い考えがうかんで、
「そうか、あの人だけは本当の仮面をつけて生きているんだ、あるいは、死んでいるのかもしれない」
そう思っていた。

楽園星スタジオ

楽園星スタジオ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted