眠らない吸血鬼。

ある一室で、そこにはベッドがあり、ベッドの上に帽子をかぶった女性、そのすぐ前につきを写した窓ガラスを背景に吸血鬼がたたずんでいた。 
「吸血鬼さん吸血鬼さん、ならあなたが吸血鬼である証拠をみせて」
 そういうので仕方なく、魔法使いの前で吸血鬼は、牙をみせた、彼と彼女は今夜初めてあったが、吸血鬼は臆病者でもごもごしていて、優柔不断で説明下手、そんなこんなで一時間たつ。
 「そんなんじゃたりない」
 仕方なく蝙蝠の群れに化ける、そうすると魔女から拍手がとんだ。
 「あっはっはっは」
 女性の帽子は魔女の帽子だった、彼女はわらいほうけていたが、しかし、魔女はふいに、猫に化けて叫んで見せた。
 「ニャー」
 「いやあああ」
 奇声をあげて、部屋の隅、カーテンのまとめられたガラス窓のはしへ逃げ込んだ吸血鬼、愕いた瞬間、かれはもう人型にもどっていて、月にてらされた目と牙はぎらぎらとかがやいていた、整えられたオールバックの髪型から、前髪が触手のようにふたつチョンと跳ねている、そんななりでいながら、臆病者らしく、今日も獲物にありつけないという。
 彼がこの家に侵入してから、魔女にそのことを避難され、おどおどしながら魔女に理解をこうて、自分の状況を説明した。彼が小一時間丁寧に説明したことは、自分が魔女と同じく怪物であること、それなのに臆病者で、神経質で、気弱である故に仲間のように縄張りを持つこともできず、仲間と争い合う事もできないこと。だからこそ、誰も狙わないような、狙うことをためらうような人に血を分けてもらうしかないらしいのだということ、自分自身悲しいがそんな説明をした。普通魔女を狙う吸血鬼はいない。魔女は説明を真剣に聞いた。
 この魔女は変わりものだというのは吸血鬼の社会でも人間の社会でも有名だった、事実、彼が変わりものでなかったら、この魔女のように、家に侵入されて、
「わっはっはっは」
 と笑いはしないだろう、彼は群れの中で嫌な役を買って出るしかない、そうでなければ、彼は吸血鬼の社会でも生きていけない、それが魔女のツボにはいったらしい、その説明でも魔女はベッドの上で何度も笑い転げていた。もともとその種というのは、好戦的で勇敢で血を愛するはずなのだ。 
 そんな彼の臆病さも、おどおどしているところも、吸血鬼の中には理解できるものはいない、たまにこうして、血にありつける幸運があるのだという、そうでなければ、彼はこうしていきていないだろう、魔女にもそれは理解できた、それもまた愉快だったのだ。 やがてそんな様子に飽き飽きしてきたのは、むしろ吸血鬼のほうだった。
 「ですから」
 「はあ、しょうがないわね、じゃあ肩でお願いね、今日だけだからね」
 魔女が着物の肩のあたりをさしだす、そうしても、吸血鬼は優柔不断だった、そして何分も遠慮がちにくねくねしていると、魔女は怒りだして、吸血鬼の髪をもやした。
 「あちっ、あちっ」
 部屋を歩き回った吸血鬼は、何かをさがしていたが、暑さに耐え切れず廊下にでて、ろうかを走り回った後お手洗いをみつけ、お手洗いの、水受けの前に頭をだした、蛇口をひねり、髪を洗うと、タイルに水がとびちっていた、彼は小さなハンカチで頭をふいた、勝手にタオルを借りるわけにはいかない、そんなこんなで頭が渇くのにもう15分かかった。
 「あはっはははは」
 魔女はご機嫌で、ベッドの上、月でてらした肩をさしだした、またもやさっきと同じで左肩だった。 
 (あ、それでは、すみません)
 がぶり。
 「うっ、やっとかじったわね、飲んだらとっととでていくのよ」
 さっきまで上機嫌だった魔女も、痛みを感じて厄介払い。謙虚でかなしい吸血鬼、だれも吸血しない怖い女性をねらって、恐る恐る吸血を頼みに来る、彼のルールはきっと、人間社会でも理解はされないことだろう。

眠らない吸血鬼。

眠らない吸血鬼。

臆病な吸血鬼。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-18

Copyrighted
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