祭りの錯覚

祭りばやしが聞えて足をはやめる、かかとからつまさきへ、のびたももの筋肉は力強く胴体を前へ、頭なら記憶をたどるだけ、痛みと希望が半々の記憶の中へ、取りこぼした記憶、聞き忘れた言葉、伝えそびれたこと、祭りのあとの残像が、心の中にのこっている、それはただの寂しさで、それはただの悲しさで、あるいは怒りであるいは不条理で、あるいは退屈で、あるいは秘密で、だけど変わらず音がする、太鼓の音、話し声、人々の足音、きっと狐のみせた幻想だけど、僕はあの日あの時と同じ祭りの中で、あの日と同じ自分を見ている、取り戻したいわけでもないけど、取り戻せるわけでもないけど、新しい方法を見つけた気がしている、祭囃子の音が消えて、手をつないだのは小さな手、小さな命がすやすや眠る。この子は、もうしばらくあずかろう、決して育児放棄されたわけではないから、彼等も息抜きをしたいときがあるのだろう。今年の祭りはもうすぐくる。少なくとも、それまでの約束だから。

祭りの錯覚

祭りの錯覚

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-17

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