人格投与
その部屋に白衣の人間が三人いた、他にはスーツの人間だけだった。隣には、眠ったままの患者がいるが、彼は機械の体をもっていた。
「人間は進化をとめたのだ」
「彼は処分するか、あるいは別人格を植え付けることしかできん」
「彼は一体だれなんだ」
3人の医者が、国の役人とともに、手術室の横の小さな部屋で会議をしている。役人はそれに見入っていたが、汗をかくと同時に言葉をだした。
「仕方がないだろう、これ以上人口をふやすわけにはいかんのだよ」
そのはげあがるたひたいは、うえからたれる少しの髪をよこになびかせ、まよこにわけてある前髪と整えられ、丸みを帯び、よこにつきだして、側面はまだ豊かな全体の頭髪は彼の真面目さ実直さを感じさせるものだった。彼は悩んでいた。
(彼は管理番号を持っていない。という事は、彼が誰であるかを誰もしらない、それは人工管理法からいってその人物が“存在してはいけない”存在であることを意味した、彼は担ぎ込まれたばかり、事故に遭った形跡はないが、ただ理由不明のまま倒れていた、きっとどこか機械の部分に異常が生じたのだろう)
やがて一人の警察官が、刑事だという男性を従えてやってきた。
「やはり“彼”に番号はありません、ですが、彼にそっくりな人間はいました、管理番号もあります」
調査をすると、本当にそっくりだった、顔ばかりではなく、調べたところによると、5年前まで彼と全く同じ人格をもっていた。
「可能性があるとすれば“バックアップデータ”」
行政の役人がいった、彼はその意味を皆が承知だという事はしっている。人口がこれ以上増える事がないよう、世界中の先進国は、子どもを作る事を禁止し、その代わりに現存するすべての人間に機械の頭脳とバックアップデータを無性提供している、それが何らかの事情で、いるはずのない“もう一人”をつくってしまった、という事になる、だとするとこれは“国の失態”。これは隠さなくてはいけない。
「偽造データ、人格投与を……」
「○○さん!!本気か!!」
医者の中の一人が叫んで反抗したものの、他二人の了承をえて、患者の修理と、人格投与が行われた、それはもしものときのためにつくられた“仮初”の知能を被験者の“人格”として植え付けられるプログラム。それは秘密裏に行われていた国家機密だったが、その国は厳重な支配体制を持つため、国民を欺くことをいとわなかった。
「おはようございます」
そうして初めて作られた人格は、誰もよりも従順で、誰よりも無欲で、だれよりも生産的な、理想的な人間そのものだった。
人格投与