登山をする事にした

 僕は山を登る事にした。友達はこぞって反対したけど僕はどうしても山のてっぺんには何があるのかを知りたかったから、だから未知の何かを求めて登る事を決意したんだ。
 途中で疲れないように僕は前日から、溜め込んでおいたありったけのおやつを1人で食べた。後から友達がすごく怒ってたけど「山が良いところだったら君にも教えてあげるから」と約束して事は収まった。
 出発の日、僕は早起きをして友達に挨拶もしないまま家を出た。山は目と鼻の先にあるように見えたけど実はとても遠くて、登るどころかそこまで歩くのも精一杯だった。
 つるつる滑る道がずっと続いた後、一休みしようかと休憩していると急にさっきまで明るかった空が暗闇に包まれた。
「えっ、えっ?」
 僕はビックリして来た道を振り返った。すると地震が起こり恐ろしいほど大きな音が響いた。あまりの恐怖に全速力で山へと走る。
  どれだけ経ったのか分からないけど、気が付くと白雪のような純白に塗りつぶされた大きな山が目の前にそびえ立っていた。僕はごくりと唾を飲み込んで、滑りそうになりながらも山肌に足を掛けてしがみついた。山独特のとても良い香りがする。でもそれを味わうのはてっぺんに行ってからだ。
 上を見上げると気が遠くなりそうなほど高かったけれど、てっぺんに夢を馳せて僕はがむしゃらに登り続けた。
 良いところだったらみんなにも教えてあげよう。帰ったらおみやげ話をしてあげよう――。

★★★

 やっと、やっと僕は登り切った、今僕はこの真っ白な山のてっぺんで壮大な景色を見下ろしているんだ! 
 僕は大きな深呼吸をしてあらためて山の周りを見た。山のいい匂いがたまらない。
「よし、そろそろ――」
 そう言って僕がワクワクしながら目の前の白いものに近づこうとした途端、急に空からパチパチと音がしてたくさんの光が僕を包んだ。
「――新郎新婦ご入刀です!」
 大声が聞こえ、白い山は片方に僕を残したまま真っ二つに割れた。そして目の前のニンゲンが叫び声を上げた。
「アリよ! ケーキにアリがいるわ!!」
 僕はビックリして白い山を坂から下りるように下山して地響きの中を必死にくぐり抜けると、全速力で来た道を戻った。
 
 この日を境に僕はもう登山をするのは止める事にした。

<終>

登山をする事にした

登山をする事にした

二作目のSSです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-09-29

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