ワールドエンド/レス
僕達が教室で数学の授業を受けているときにもしも世界のどこかが壊れてしまったとしても、たぶん放課後、校舎を出るときまでそのことに気付けないんだ。
一日中、友達と笑って過ごして苦手な教科はすっ飛ばして過ごして、いざ帰ろうとしたらまわりが砂漠になっている、とか。いまだかつてないものすごい事故や災害が起こって、無事なのは僕達しかいない、とか。途方もない空想をするけれど、やっぱり帰り道の夕暮れが平穏なことに、僕はぞくりとしてしまうのだ。
今回きりの夏が終わってしまって、今回きりの秋を迎える勇気もないまま、小さい頃のこと、サンダルが片方脱げたまま花火大会から帰って来たときのことを思い出している。
変化に鈍感になるのはときに必要なことで、たとえば僕が擦り切れてしまわないよう、必要なことで。だから太陽のある時間が短くなってゆくのにも気付かずに眠ってしまうのだろう。永遠のように、さながら鉄道に乗ることをやめたカムパネルラのように。
僕が見聞きしたもの、それを世界と言うのだとしたら箱に入った猫だ、僕が覗かない限りどうにかなってしまうことなんてない。巻き戻るわけでもない時間をながめるのに飽きたなら、ジョバンニでもカムパネルラでも、ザネリでもなかった僕達は、遠くなってゆく火星の光を見つめるのだ。耳鳴りとの区別がつかなくなった風の音を聞きながら。
どこかでひとつ、またひとつ、世界が崩れる。
それでも夕暮れは、嘘のように平穏だ。
ワールドエンド/レス