期待の迷路
必ずそうなるはずだった、黒く濁った油の水たまりを覗きこんだ誰かがそうつぶやいた。
(そうはならなかった、諦めよう、でも次は……)
よく見ると水たまりの向うに、自分の顔が映る事がある、覗いていた水たまりが、昨日の雨でできたものだったら、その世界はやけに澄んでみえる。
(いつもそうだった)
あれは螺旋階段だ、それを降りた先に迷路があった。自分の気持ちが明るいときは澄んでいて、暗いときには黒く濁る、のぞき込む人間は、私でなければいけない、あれは迷路、でも私はなぜそれを迷路だと感じたんだろう、自分で、ここには、落ち込むたびにくる、その真逆のときもある、わざわざきめた秘密の廃工場裏だ。さっきからずっとここにいる。
ひとつの面倒ごとが終わった、とてもつかれた、だけど初めからそんな事はしっていた。始まりから見て、終わりはよくわかる、なのに決心が決まらない、次の始まりは何だ、次の出来事の始まりはいつだ。私はバッグから、スマートフォンを取り出した、高性能な精密機械は、カメラやビデオカメラ、あるいはメモ帳、カレンダー、それらの新しい道具を必要としない、ここになら、なにもかもがつまっている気がする、だけど、何もない。これを泥の、油の水たまりにたたきつければ、自分の迷いから逃げ出せるのか、逃げ出した場所から逃げ出すのは、変な話だ、答えは単純なんだ。終わったあとの自分が想像できるかって事だ。
わからないふりだ、だけど本当は知っている。私の長い髪が油のたまりに映る事がある、半端な無表情が、すんだ雨降りの水たまりに映る事がある、そこには自分がいる、だけど、この場所に意味なんてない、私は問う、そのためにここに来た。あと三週、小さな湖をあるいて右回りの運動をしたら、日常に戻る。
期待の迷路