マックスフェスタ

yumieisuke

 殺人事件があった、被害者は道路わきに横たわっていて、交通規制がしかれている。顔はぐちゃぐちゃで誰だかわからない、体だけ見ると20~30代の男性に見える、野次馬の中、黄色いバリケードテープで規制線をひいて、警察官二人組は、ブルーシートをかけた、
「さすが、塀の外だぜ」
「なんです?」
「シャングリラの“神殿”のない地域の事を、塀の外ってよんでるのさ、信仰もない、文化もない、あるいみシャングリラの犠牲者だよ、この国は、夢の国といわれているが、対戦前、かつて先進国の大都市圏から逃げて来た富豪たちが、楽園を作った、だがそこにあぶれた奴等は、たいがいあんな目をしている」
二人とも30代くらい、年上らしき刑事が、そうして指をさしたのは、雑踏の中だった、誰もが興味なさげな目をして、死体のほうをみていた。

 ルル、その男は、シャングリラ郊外に朝から人込みができている事に気がついた。その人ごみの外にいたのだが、警察のパトカーを見つけて面倒ごとはごめんだとめをそらしふりかえってあるきだした。あまりふかく立ち入ったつもりはなかったが、ルルは雑踏の中にいた。その顔はやせこけていて、頭一つぬけて、2メートル超えるほど背が高い。
「ああ、また道端に倒れてるぞ」
 独り言がくちをついてでた。
「おい、ちょっとそこの君」
どうやら指名手配犯と似ていたらしく事情聴取を受けさせられた。
「俺じゃねえ、“そいつは”殺してねえ」
警察署の中、取調をうけるものの、証拠不十分で返され、郊外へもどったのは、午後6時だった。

 彼も警察の厄介になったこともあった。彼は、特に今日用事はなかった、郊外の空き家にすみついて、時にギャングの手下をしている。郊外の事情なら警察もしっている、とにかく解放されたので、明日は何かしら仕事をまわしてもらわなければならない、シャワーは、近場の知り合いの家で厄介になった。明日は早起きだ、薬を配る仕事がある。警察の厄介にならないように、毎日仕事は違うものだ。
「ああ。人間なんてみんなおんなじだ」
彼は退屈そうに溜息をついた。なんて、退屈なんだ、床によこたわり、コートを布団がわりにすると、目をつぶり脳裏をよぎる夢、それは故郷が燃え盛る光景だった、あくまでそれは合法らしかった。だが故郷の人々は、立ち去らなかった、シャングリラの人々はそれを“開拓”と呼んだ。ここは社会主義の国。

ドンドン
 「おい」
ドンドンドンドン
 「おい、大事なお客様だ、おい、いねえのか、ルル、このろくでなしが!!おい!!馬鹿野郎」
 「へ、へいへい」
そういって扉をあけると、目の前には見覚えのある顔、おきたばかりのかすんだ眼の中に、にやにやとしたそのバカげたサングラスと派手な赤と黄色の迷彩柄のような服をきた男が映る。ディルだ。ギャングで、いつも仕事をくれる人だ。
 「親分、こいつです、昨日も警察に厄介に、いや、まあ疑われただけですが」
 「ほう、俺はモグラだ、いや、クローと呼んでくれ、モグラに似ているから、モグラって呼ばれることもある、ギャングのボスさ、なあ、話しがある、おまえ、また警察にねらわれたってな」
 (なんだこいつ、偉く小さい)
 それがクローの第一印象だった、顔は醜くへこんでいて、髪ははげてうぶげのようなものしかない、まるで子供のような身長で、手足もやけに短い。
「おまえには付き物がついているよ」
「は?」
 わけもわからず家の中へ案内し、拾ったコーヒーを入れた、ボスはそのとき、それをうまそうに飲んでいた。廃墟という事もあり、床はたんなるコンクリート、雨の日には雨漏り、そうでない日も虫が入ってくるのは当然、壁が開いている場所は風がふきぬけるので冬場は寒い。なんてこともないように、その“ボス”は自分の真正面にすわった、客のために用意してあるのは、背の低い丸いテーブルだけだった。

 「すみません、事情がよくわからないんですが、ディル親分、いったい俺をどうしようって?」

 「マックスフェスタ」
 聞いたことがあった、その瞬間、過去の記憶がよみがえる、戦闘狂と故郷でよばれ、孤独に過ごした毎日、鍛錬だけが自分の救いだった日々、複雑な家系の中の悪い家庭の様子、重苦しい食事風景。
「悪い話しじゃないだろう」

 クローはすぐに帰った。残ったのはギャングのディルとルルだけだった。
——スクラップ工場で、スクラップ住んでんのアンドロイドと、体をサイボーグ化した人間との、格闘技が行われている、それは命を懸けた決闘で、人試合ごとに優勝者がでる——優勝者には特別な報酬。
「お前がその試合に出て優勝したら、ボスはお前をファミリーにいれてやるって」
「ファミリー?」
「ボスはな、規模は小さいがギャングのボスだ、おれたちにもいい風が吹いている、隣町の有名なマフィアに気に入れられてな、今度おれたちはシマをもつマフィアへの階段を上ることを許されたのさ」

 気がつくと闘技場にいた。夢も理想も願望も捨てた、それはこの世界の少数の人間によって、いとも簡単にふみにじられる、だがあの男、汚らしい食事と、汚らしいからだと、品性のかけらもない言葉遣いと、知性を感じさせないふるまい、あの男、クローなら、もう一度ルルの目の前に“あの日の光景”それへの、復讐心をよみがえらせてくれるかもしれない、そう思った、だからこそ、その決闘場にでた。
「死神拳の使い手!!伝説の戦闘民族の生残り——ルル!!!——」
 紹介されて拳をにぎる、観客たちはまるで品性も知性もない、だが少なくとも、ルルよりは金がある、満足のいく生活がある、ルルは、復讐心だけを煮えたぎらせた、感覚がよみがえる、不条理を与えなければ、目の前に現れるのはいつも敵だった。敵を倒すこと、それだけが自分が生きるための道。

「俺は死神」

独り言をかき消す完成、闘技場はスクラップ工場のすぐ後ろにあった、それは山積みの廃車や廃棄物のかこいのなか、少しだけ自由のきく、ひらかれた場所だった、まるでそこがプロレスのリングのような建物があって、そして観客たちは、廃棄物の椅子に無造作にこしをかけて決闘を喜んでいる。

「私は、スクラップになりたくありません、そのためにはあなたを殺すしかありません」

 頭蓋骨の、後頭部の欠損したアンドロイドが何かをしゃべった、それよりも早く、彼は敵にまきついて、彼の関節を、バラバラにくだいていた。
「これが“死神拳”」

 クローは、騒ぎわめく観客や、レフェリーの言葉などないように、彼が出口へ行くのを見ていた、もはや、優勝は確信していた。幹部連中とともに、彼が出口からでてくるとき、よびとめた、彼はぜえぜえと息をしながら、クローよりももっとむこうのほうを、かすんだ眼で見つめていた。
「だれだ……」
今目の前にいる人間を、殺してしまいそうな気がした、それが“生死を分ける決闘”に及んだあとの、かすかに残る、緊張。ルルは嘘をつかなかった、伸ばした手は何かをにぎった、拳銃だった、クローは拳銃を、ルルにむけていた。
「うわさはきいていたんだよ、お前は素晴らしい才能をもっている、だが才能のせいで、イメージしただけで、友達でも恋人でもすぐにやっちまうってな。こいよ、お前にはこのファミリーがふさわしい。俺が仕事をやる、ファミリーにはいれ」
 相手がそういうと、ルルはそのまま、長身のルルが、真横にズドンという音をたてて倒れた。

 3年後、ルルは家をもっていた、恋人がいた、だが今日、恋人は血に染まっていた。訪ねて来たのは、太った兄貴分の、シシだった、

「おい、ルル、その女は何人目だ」
「さあ、俺は、敵をつぶすだけです」
 アパートに迎えに来て、ふっとわらったのは兄貴分のシシだった、彼は戦うことしか知らない、それなのに時たま知性的なときがある、それが兄貴のお気に入りだった。彼の部屋の片づけは、彼等の子分のギャングがする事だろう。

マックスフェスタ

マックスフェスタ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-13

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