解けていく夏、夕の秋
壊れた庵で人を詠む
誰かが小さく生きた四季を
火が燈らなくなった絶えた暖炉は
今では背を立て掛ける歪な壁
焦がす 陽射しの変動を測る
解けていく夏
解けてしまった夏
髪が靡けば それは夕の鼬風
君は今 結んだ口で 戯けて魅せた
古い季節を超えていけない
誰かがいた そこには
誰かがずっと 僕を知り待っていた
目が慣れない 冷えた雲間
僕らの夢に刺さる記憶とは
動かなくなった羽根の様に
送り出す想い出にも似た寂寥
降らず 雨は予報を嘲る
暮れていく夏
暮れ解けて逝く夏
僕らが謳えば それで終いの詩歌
音は凪 結びを問う 秋染めの空
手を取り踊れど 君を思い出せない
水辺でひとり しゃがみこんで
僕の名前を零した 君がいたはずなのに
肌を通る神経が 全身を巡る拍動が
奪われたものを創り出そうとする
意味のないことこそ
意味がないからこそ
意味を持たせようとする
秋を呼ぶ 蝉時雨
髪を解いて 心を仕舞うだけの舞台
誰かがいた
そこには 僕の知る君がいた
髪を結んで 解いて 心を 解いて
手に入れたものなんて
意味を持たない結晶だけ
ひびが入ろうと 割れたとしても
また生まれるの
夏が解けても… 夏が解けてしまっても
誰かがいた
ずっと 名前を呼ばれていた
君がいた庵に心が燈っていたあの夏
解けていく夏、夕の秋