アンドロイド処刑人

 「おはようございます」
 「おはよう」
 私は、執行人B11,アンドロイドの処刑任と呼ばれる、アンドロイド処分執行人が本部ですれ違いざまに職員とのあいさつを終えた。私たちの役割はどうして生まれたか?なぜだろう、それはきっと、22世紀以降、世紀も半ばに入ってアンドロイドの犯罪件数は日ましに数を増して。それはアンドロイド自体の数が増えたこともあるだろうが、単に彼等にも危ない流行がいくつか生み出されていたのだ、そのためアンドロイドを取り締まる、警察とは別の権力機関が必要となったのだ。嫌気がさすこともあるが、この仕事がなければこのアンドロイドの大量生産社会には対応できない。私は自分にあてがわれた専用の部屋に入る、その奥には、部長の部屋がある、特に問題がなければ立ち寄る事はない。粛々と上からおりてきた任務を遂行するのみだ。
 一つ前の職務・処分対象は、スティーブンという名前で、建設会社で事務をしていた。勤務態度はいたってまじめ、彼は突如として法を犯すことになるのだが、それは、人間からすればあまりに軽微なもので、ある界隈では法の方の作りが悪いのではないかと噂がされるものだ。
 彼の記憶を初めて操作したのは、操作の序盤も序盤、まだ彼の真相のプログラムへアクセスできていなかった頃だ。なにせよ、頭脳は損傷を受けていた。——かれの自殺によって——手元の資料には彼の供述がある、「法を犯そうと思ったときもそう単純じゃなかったからさ。だけど、危険な橋を渡るときも、何かを我慢して前に進むことも同じだったんだ」プログラムをたどると、彼の日記には、そんな事が記されていた。話し言葉に変えて解釈しているが、内容は同じだ。私は、スティーブンの処分の前に、職場を訪ねたことがあった。

「彼は、スティーブンの職場での態度は?」
「得に、他の人間たちと変りはありませんでしたよ、彼の親権者も、とても有名な方でしたし」
 数日前、ビィシティ某所の職場を訪ね、一通り職員たちへの聴取をおえたあと、最後の一人だけがひっかかったのだ、最後の一人は女性従業員のエルだった。彼女は、かつては地元銀行で働いていたらしく、職場があわなかったということでスティーブンと同じ会社で彼の入社時期から経理をしていた。私はその人にあったときから、並々ならぬ何かを感じた、心理学も学んでいるし、執行人として人間の感情により敏感であるというテストを受けて合格したわけなので、私は私の感性を疑うわけにはいかない。彼女と彼の間に何かがある。間違いなく、事件発覚後も接触していたと、だが警察には話さなかった。それは黙っていてもいい事だ。
ついてもいい嘘もある。

 私は再び手元の資料を見る。部屋は格子があって、施設を囲むように厳重な塀もある。外の景色はほとんどみえない。そんな中で、寂しく、ふとこんな風に、過去の事件を思い出すことがある、スティーブン。彼の犯した罪は、“痛みを感じるプログラム”を自分の中に取り込んだことだ。それはアンドロイドでいう極刑にあたいする犯罪だった。処分執行機関の所管する業務である。職場を訪ねた二日ほどあと、僕は彼の記憶をほとんど見た、やはりあのエルとは並々ならぬ関係であったらしい。それは黙っておくことはよしとして、彼はなぜか、アンドロイドの中でギャンブルの様に流行する、“痛みプログラム”を自分の中に組み込み、そして自殺した。——それはなぜか。我々がおいつめたのだろうか。——自殺は、我々、B11以下二名で彼の住み家に尋ねて行ったところ我々職員の目の前で行われた・彼は逃亡もせず、諦めたようすもなく、突如として引き出しから拳銃をとりだし、我々が拳銃をかまえると、彼は自分のこめかみに、銃口をあてがい、
「すまなかった」
といった。彼は、痛みを知ったあとに何を感じていたのか、あの自殺寸前の、彼の、薬に関する記憶を調べた。彼の記憶から理解できたことはこんなことだった。
「私は、感情が欲しかった、痛みはその始まりだとおもった、だがこれは心や感情ではなかった」
読み取れたのは、そういう情報のようなものだけだった。

 その後、私は事後処理のため何度か彼の職場をたずね、例のエルという女性とも接触したが、彼の自殺の件に関して私はいくつか嘘をついた。その一番大きなものが、「彼は心をみつけた」という事だった。

アンドロイド処刑人

アンドロイド処刑人

sfです

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-11

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