デート・ア・ライブ the day of sister[20180906]
こんにちは、オタリアです。今回は9月6日が妹の日だということで、琴里を中心として掌編を執筆しました。
愛されているということ
あれだけ猛威を振るっていた猛暑も段々と和らぎはじめた八月が過ぎ、九月に入る。
今年の夏は様々な自然災害が発生し、今も懸命な復興作業が進められている。
九月六日、とある休日。
自室のベッドで寝ていた琴里は、カーテンのわずかな隙間から差し込む朝日で目を覚ました。
「んぅ……」
寝起きのせいかやや不機嫌な声を漏らし、むくりと体を起こす。ちょうどその時、目覚まし時計が遅れて鳴り響く。
「……」
がやがやと騒ぐ目覚まし時計の頭を無言で押さえて、チャイムを止める。
今は午前六時半。平日ならまだ寝ている時間帯だが、休日に早起きするのは良い事なので、琴里は気にしない事にした。
そのままベッドから降りると、自室を出て洗面所に向かった。
朝の冷たい水で顔を洗って、寝ぼけまなこから脱出する。軽く髪のお手入れをしてから、鏡に映る自分の姿を確認して「よし!」と声を出す。
午前八時。(休日の)五河家の朝食の時間である。
リビングには、キッチンとを往復している遥子の姿があった。
「おかーさん、おはよー」
「おはようことちゃん。朝ご飯出来てるから食べてね」
「はーい」
琴里は椅子に腰かけ、箸を持ち「いただきますだぞー!」と元気よく声を上げる。対して、遥子は「はいどーぞー」と間延びした返答をする。
遥子が家族分の朝食を作り終えてひと段落つけた時、琴里がポテトサラダに箸をのばしながら尋ねた。
「あれ、そういえばおにーちゃんとおとーさんは?」
「たっくんは夜遅くまでお仕事してたみたいね。しーくんは……ま、そのうち起きてくるわよ」
「そっか」
もぐもぐとポテトサラダを食べながら琴里が返す。
「……昔みたいに、ことちゃん、たっくんの部屋に行って『おとーさん起きろー!』って起こしに行く?」
遥子の意地悪な質問に、琴里は頬をやや染めて、
「そんな恥ずかしいこと出来ないぞー。私が起こしに行くのはおにーちゃんだけだぞー!」
「――ふふ。ことちゃんって、本当にしーくんのことが大好きなのね」
そう言いながら椅子に座り、頬杖をついて琴里を見つめる遥子。彼女の表情はどこか感慨深さが滲んでいた。
母親の思いもかけない言葉に、琴里は目をまん丸に見開く。そっと深呼吸してから、こう言った。
「私はおにーちゃんの妹だから……」
娘の本音に遥子は柔らかく微笑むと、さらに問いを重ねた。
「しーくんへの気持ちを表すなら、どんなかんじ?」
「ふえ?」
琴里はぱっと顔を背ける。遥子からは、赤く染まった娘の耳朶が見えた。
ラタトスクでは気の強い司令官として振る舞える彼女も、こうしてひとたび“親子”という枠組みに入ると、一人の中学生の女の子なのだ。
おもむろに立ち上がった琴里は、受話器のそばに置いてあった可愛らしいメモ用紙とペンを手に戻ってきた。
長い髪で遥子から見えないようにメモを隠しながら、何かを書いていく。やがて、それをぶっきらぼうに遥子に手渡す琴里。
メモ用紙を受け取り、遥子はそれをそっと開いた。
リビングを後にした琴里は、その足で士道の部屋へやって来た。
現在の時刻は午前八時半過ぎ。いくら休日とはいえ、そろそろ起きてきても良い時間である。
琴里は「おにーちゃんはしょうがないなー」と呟き、ため息を一つ落としドアを開けた。
見慣れた兄の部屋。士道は琴里が入ってきた事に気づいておらず、今もベッドで寝ている。
窓際には士道の勉強机があり、机上には写真立てが飾られている。本棚には色々な書籍などが収納されている……。
ふと、琴里は一冊のアルバムらしきものに目がいった。
「なんだろうこれ」
手に取り、ケースから冊子を取り出してみる。表紙には、琴里の名前と誕生日が記されていた。
ページをめくった。最初のページには琴里が産まれた頃と思われる写真が貼り付けられている。
ベビーベッドですやすや眠る琴里がおり、傍らには、彼女の頭をそっと撫でる、今よりいくらか若い遥子が写っている。
「ふふっ……おかーさん、すごく若いぞー」
琴里はそっと笑うとページを一枚一枚めくっていく。
めくっていくごとに、段々と写真の中の琴里も成長していく。
――――初めて立った時の琴里を見て涙を流しながら拍手する竜雄。
――――幼稚園の入園式に映る五河一家。この時の写真には士道が写っている。
ページをめくるごとに琴里の懐かしい記憶が呼び起こされていく。彼女は胸のうちがぽかぽかとしているのを感じていた。
やがて、最後のページにたどり着いた。
最後のページだけ、透明なケースに写真が収められている。それは、旅行の最中だろうか、新幹線の中でぐっすり眠る琴里を写した一枚だ。
「おにーちゃん、いつの間にこんなの撮ったんだろう」
不思議に思いながらも、その写真をケースから取り出す琴里。すると、写真の裏に何か貼り付いていることを感じ取った。
裏返してみたところ、それは付箋であることが分かった。そこにはこう書かれていた。
『琴里がいつまでも元気でいられますように』
その願いは、一人の女の子の感情を揺さぶるにはあまりに破壊力があり過ぎた。
嬉しさ、胸がきゅっと締め付けられるような感覚――そして、“愛されているんだ”という自覚に浸り、小指でそっと涙を拭い、アルバムをそっと本棚に戻してから部屋を後にした。
後日、士道が本棚のアルバムを確認した時、最後のページに収めていた写真の行方が分からなくなり慌てふためくのはまた別の話である。
デート・ア・ライブ the day of sister[20180906]
楽しんでいただけたら幸いです。また別の小説でお会いできるのを楽しみにしております。