3月14日
左手の薬指の、硬くなった瘡蓋を剥がしたら、浅黒い血がじわりじわり出てきた。私はそれをぺろりと舐める。デジタル時計はいつものように(!)夜の3:14を指している。あの人の誕生日。3月14日。いつものように、私は激しく狼狽する。
虫よろしく吸い込んだ、たっぷりの白い蜜を、今すぐ胃から全て吐き出さないと生きていけないと悟った私は、薬指の傷をむちゃくちゃに掻き毟った。痛いけれど、なぜか気持ち良い。トマトみたいにじゅくじゅくになって、また新鮮になればいい。私の愛は、爪に溜まったこの血肉の塊のようだ。まるで誰の為にもならない。残るのはこの痛みと快楽だけだ。あなたに贈ったつもりでいた言葉の数々は、全てが嘘だった。嘘にも成り切れない壊疽(えそ)だったかもしれない。泣いていたのは、いつも自分の為だった。
発情期の猫みたいに欲していた感覚とは何だったのか、今になってはもう分からない。
3月14日