死に、掻ける

 心の空虚さを感じる。ゾンビになってどれくらいたつだろう、どれくらいの痛みを感じただろう。ただ生きていただけの事より、死を身近に感じる、だけど、死を感じさせるための、神経回路からの信号は、むしろ自分へ、死なない事の快楽を感じさせている。ゾンビになってから、意識はあるが、心と体の自由がきかないまま、僕は生き続けている。体のあちこちがいたい。僕はまだ生きている。増えていくゾンビ、死んでいく人間。その映像を目の当たりに見ながら、僕はまだ生きている、死んでいるようなていで生きている。体のあちこちがかゆい、腐敗が進んでいるのを感じる、きっと白骨になるまで、これは終わらないだろう。だからどうか、いずれ人間以外の知的生命体が生まれたとき、あるいはこの星を訪ねた時には、どうか僕のこの時の苦しみを、理解してはくれないか。周りのゾンビは、空腹と人間を食う事の喜びを知っている、僕はただ不満を蓄えたまま、その喜びも、人間であった時の喜びも感じる事もなく、ただ体中を虫が這う事のかゆみと、仲間がいない事の空虚さを感じながら、ただひたすらに、腐っていく。

死に、掻ける

死に、掻ける

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-09

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