あるキツツキの

あるキツツキの

「ここだけの話だよ。」
そういった彼はどこに行ったのだろう。


私の名前は啄木鳥奈緒。高校2年生。友達には「キツツキ」って呼ばれている。
友達は少ないけど、私にだって親友くらいいる。
「キツツキー。おはよー。」
この子は龍崎愛帆。愛帆とは小学生のころから一緒だ。
でも、いつも疑問に思うことがある。どうしてクラスでもいつも中心に彼女が、私なんかと仲良くしているのか。
「どうしたの、キツツキ。怖い顔して…。」
「あ、ううん。何でもないよ、愛帆。」
「そう…。」
ちょっと不信感を抱きながらも、愛帆は明るく話に移った。
「ねえ。あたし、キツツキに言わなきゃいけないことがあるの。」
「え、何…?」
突然の切り出しに私は驚いた。しばらくうつむいていた愛帆が顔を上げた。
「あたし、織田君と付き合うことにしたの。」
「え!織田君と?」
「…うん。」
頭の中が真っ白になった。
愛帆が付き合うことに対しては別にいいと思うし、年頃だから当然だ。でも、なんで織田君…。
「なんで?なんで織田君なの?織田君…全然格好良くないじゃん!」
「格好良さでお付き合いはできないよ。」
「でも、でも、伊達先輩にも告白されていたじゃない!断ったの?」
「うん。だって伊達先輩ってかっこいいけど面識ないもの。」
面識ないものって…。私は頭が混乱してきた。
「お互いなんて付き合ってから知るもんじゃない!」
「キツツキ。」
急に自分の名前を呼ばれて驚いた。愛帆の真剣なまなざしを見ると息をのんだ。
「あたしは織田君でいいと思ってる。」
―――愛帆は本気でフッたんだ…。
「…いいよね、愛帆は。」
「え?」
私はあえて低い声で言った。
「私よりずっと美人でずっと可愛いあんたはよりどりみどりだもんね!」
「え、キツツキ?どうしたのよ」
「伊達先輩をフレるなんてすごいね!」
「ちょ、何怒ってんのよ?」
「もう、いいよ…」
私は愛帆に背を向けて歩いた。
「あっ、キツツ…」
愛帆が言い終わる前に後ろを振り返り、目が痛くなるほど睨んで言った。
「私の名前を呼ばないで。」
そういうと走り去った。

愛帆と喧嘩してしまった…。
「あんな様子じゃ気づかれちゃったかな…」
そう、私は伊達先輩が好きだったのだ。
告白だってした。したけど好きな人がいるっていうから誰?って聞いた。
そうしたら
「うん、龍崎が…。」
「え、愛帆が?」
「うん。ごめんな、啄木鳥。」
あの時の伊達先輩を見たらそれ以上は言えなかった。
「ふふ…。明日謝ればいいか、愛帆には」
そういって帰路についた私はこの先の出来事なんて予想できなかった。

「奈緒っ!奈緒っ!」
「はいっ?」
私はその大声で目が覚めた。
「あ、奈緒って私か。」
最近キツツキとしか呼ばれていなかったから忘れていた。
「奈緒っっ!」
「あ、お兄ちゃん。」
部屋に入ってきたのは私の兄、啄木鳥真央だ。
「奈緒…聞いてないのか?」
「え?何を?」
「…っ!」
一度歯ぎしりをしたお兄ちゃんは急に私に抱き着いてきた。
「ちょ、おにいちゃ…」
「落ち着いてよく聞けよ。」
「え?」
お兄ちゃんは暗い顔になった。
「愛帆が…死んだ。」
「……は?」
はい?愛帆が?なんで?
「轢き逃げだよ、トラックに…」
「あはははは、ははは。嘘だよね、ドッキリだよね。ね?」
「…事実を受け止めろ、奈緒。」
「…う、うわあああぁぁああ」
「……」
「あああああああぁぁあああああぁああっ」
久しぶりに私は泣いた。

あるキツツキの

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更新日
登録日
2012-09-28

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