星の子二世

 地球にある文句の看板が立てられ始めたのは、西暦3000年の事だった。看板の内容はこうだ。我々星の子政府は、悪化する地球環境から脱出するための船を建造します、地球の“国家”は滅亡します。生きのびたいと思う人々は、新しい“母星”の政府を信じてください。我々には宇宙開発に関する専門的知識も、莫大な財産も、優秀な研究者も用意できます、新しい星に移住する希望のある方、すぐに我々の発行する“チケット”を購入してください。いますぐ逃げ出さなくては、地球はあと15年で死滅します。

 ユリはそのころ15歳、ほとんどがむしゃらに脱出用チケットを入手した。正規ルートではなく、自分の中の、そして祖父の遺品から金になるものをくすめて、祖父の記憶にはいいものはないし、心は痛まない、しいていうなら、心が痛まないことこそが、彼女の苦しみ。
 
  星の子政府は実在した、ユリは地下に隠されていた巨大な宇宙船“アダム”に乗り込んだ、それが最初で最後、たった一機の地球脱出艦、しかし、いまだに火星を開拓しているという“星の子政府”が何者か知られていない。もっとも、仮説はいくつかある、ある国の宇宙開発研究機関だとか、アンドロイドたちの集まりだとか、ユリは長い夢をみていた、他の搭乗者たちもみなそうだった、冷凍室にいれられ、眠る間、電気信号で、洗脳のように同じ文句を続けて脳内に注入されつづけていた。それは頭が狂うほど奇妙な文句で、こういう内容だった——この宇宙船に乗り込んだ人々へ―—“あなた方は星の子労働者”であり“君たちの権利は我々に劣る”つまり“君たちは、我々の用意した偽の賢者をあがめなさい”それが、君たちの新しい指導者で、歴史上の重要な人物の代わりになるのです。君たち一般労働者は、好きなものを好きといい、嫌いなものを嫌いといい、正しいと思うものを信じ、間違っていると思うものを疑えばいい。ただそれだけの事です。——

 第二の母星火星は、温かく出迎えてくれた、それもこれも、星の子臨時政府が、先行してアンドロイドや、機械たちを労働者として、もう何百年も前から働かせ、惑星テラフォーミングに導入していたからだ。
 
 “偽の星の子を探せ”騒動が起きたのは、星の子政府が、隠れて第二の巨大宇宙船を建造し、火星に送り出したからでした、そのころユリは24歳、人々は皆鎖でつながれ、元居た機械たちと同じように労働をしていました、考える事も許されず、ただ星の子政府のいう“賢者”とよばれる人々をあがめ、歴史上の重要人物としてとらえるようにいわれているだけです。それが、精一杯の娯楽でした。一人は美女、一人は髭の紳士、一人は病弱そうな性別不明な子供、その人々は皆モンタージュ写真のようで、実際に姿を見たものはほとんどいません。うわさに聞くだけの事です、どこか空想じみた存在感をはなっていました。

 “偽の星の子を探せ”騒動は内紛でした、火星歴120年。星の子政府が偽り、地球脱出船が三隻も建造されていたことをしった、初期移住者は、後から来た人間の中から“賢者”を信奉しない人間たちを探し、魔女がりや、宗教裁判のようになり、火あぶりの刑にしました。治安は急速に悪化、星の子政府は何もしません、あらがうものもいません。第二の母星に来た時点で、人類は“書物の歴史”をうしなっていたのです。

その100年後、いままで黙りに黙って、惑星の開拓のために尽力していた、もっとも初期の火星移住者、アンドロイドたちが、人間たちに後からやってきてなんで戦争をやっているんだ、といって、機械たちが怒りだし、人間は絶滅しました。だから人類の中に、星の子政府が人工知能であることを知っているものは、ほとんどいませんでした。

星の子二世

星の子二世

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-08

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