寛容な栄養
ある冒険者が、辺境の地ユーダリルに住むドラゴンを討伐しようと、その地を訪れた時に聞いた話。
酒場には、活気があふれていた、だが、街に入った途端から冒険者は勘ずいていたのだが、この街にはあまりにも老人の数が少ない。ドラゴンについて尋ねると、酒場の者たちは途端に顔をしかめ、冒険者がその神話やいわれについて、あまりにしつこくたずねるので、いやいやながらもその伝説について話はじめた。
「あのドラゴンは、神であり、悪魔である」
酒場のその人がいうには、そこに住む伝説のドラゴンは、人を食うらしい、といっても老いた人間だけらしいが、いままで何度も冒険者が挑んだが、老いた冒険者以外ははるか昔に、この周辺の村の呪術師がかけた呪いの影響で、そこに近づく事すらできない、それも生きて帰った人間はたった一人、ドラゴンは老いた人間の持つ“死の欲求”を察知し、それによって、その精力を吸いつくすのだという、若者の死の欲求は食べない、そのたった一人の老人は竜が人の言葉をしゃべったといい、その人がきいたところによると、竜は老いる事が出来ないのだという、老いる事の出来ない竜は、自殺願望のある老人の魂を吸う、精力を吸うのだという、竜は毎日穴倉にいて、人間の命を吸わないためにそこから動かない、老いている竜で、それ以上老いる事のできない呪術をかつて神人によってかけられたために、毎日記憶を失っていく、うしなった記憶を補うのが、そこを訪ねていく老人、自殺願望のある老人だった、だからこの街の人々は、そうした人間をドラゴンの贄としていて、ドラゴンはまた、そうした人間の精力をその身に宿すことによって、その場にいながら、人間たちの暮らしを体験するのだという。
「それがあのドラゴンの伝説だが、悪い事はいわねえ、よしたほうがいいぜ」
冒険者は、やめる、というとその酒場はふいに明るさを取り戻したようだった。
寛容な栄養