第6話ー4

 北の星間国家バジャラハ国に銃撃、狙撃、遠距離攻撃という言葉は不名誉とされ、その強靭な筋力で抱える鎧に防御のすべてを託し、自らの腕にひっつかんだ白刃で敵を皆殺しにして、好んだ食い物を喰らい、好んだ酒を飲み、好んだ女、男を犯す、これが彼らの戦争の理由。愛国心は尋常ではなく強いものの、それよりも自らの欲望を満たす。それが彼ら、バグスリアンの行動原理であった。
 まさしく獣たちは複数の強襲艇で首都各地に着陸すると、首都防衛に駆け付けた兵士、警護組織の人間たちのクリスタルの銃口から放たれるビームを受け、それで仲間が狙撃され死んでも、その屍を踏みつけて全身、巨大な反り返った白人で、クリスタルの戦闘服を一閃して、人体を真っ二つに切り裂いた。
 鮮血と脳髄、内臓がそこらじゅうに飛び散り、阿鼻叫喚が首都を包んだ。
 バジャラハ国の兵士に遠距離攻撃も爆発攻撃も、何度もいうが存在しない。彼らの武器は自らの身体。それを武器に防衛する兵士たちを殺戮していく。その圧倒的な数で、広いクリスタルの街道を埋め尽くし、逃げ惑う市民をもその白人で切り裂いた。
 中にはすでに女をひっ捕まえ、甲冑を脱ぎ捨てるとその場で女のトーガのような衣服を引きちぎり、犯しているものも知る。
 またクリスタルの重要性を知っている者は、汚い布袋に崩れたクリスタルのがれきを放り込み、本国へ帰って金銭に替える算段を頭の中でしている者もいる。
 とにかくクリスタルの都は蛮族に染まっていった。
 母を連れて逃げる執政官メハは、防衛線がクリスタルタワー、ワートを円状に囲む形で展開されていることを、予測して、とにかくクリスタルタワーへ急いだ。大きい通りは強襲艇が着陸して敵の軍勢が闊歩していることを見越し、狭い路地へと入っていく。
 しかしそこにも瓦解したクリスタルの塊が落ちていて、足元が悪くなっていた。
 メハは履いていた靴を脱ぎ捨てると、美しい素足をクリスタルの鋭いうえに乗せた。痛みも出血も今は感じている暇ない。捕まったら最後、蛮族にどんなめにあわされるかわかったものではない。
 狭い路地に逃げ込むのは彼女たちだけではない。市民の中にも身をひそめようと路地に張っている者もいる。
「ワートへ。全員、ワートへ向かってください。ワートならば敵も簡単には攻めてこれない!」
 逃げ惑う人々を先導してクリスタルタワーへ向かうメハ。
 すると運よく防衛する兵士たちと遭遇し、まだ敵が進軍していないルートでワートへと向かうことができた。
 ワートへ入ると、そこにはすでに多くの傷ついた市民であふれており、まだまだ市民が避難してきていた。
 病院の医師たちもワートへ医療器具を持ち込み、必死にけが人の手当てをしているが、間に合っていなかった。
 混乱するクリスタルタワーの中、メハは母を連れ、転送エレベーターへと向かった。
 入るとすぐに2人の身体は素粒子レベルへ分解され、クリスタルタワーの地下のエレベーターで素粒子が再構築され、2人は実体化する。
 そこにも警護の兵士が無数にクリスタルの剣のようなライフルを構え、敵に備えていた。
「ご無事でしたか」
 兵士長が安堵の言葉を述べると、すぐに奥にある分厚いクリスタルの扉を兵士に開閉させると、そこには広い空間が奥に続き、国王、高官、各国大使たちが酒のクリスタルのグラスを片手に、反重力椅子に仕掛け、優雅に戦況をホログラムで見ていた。
「おお、我妻よ、無事であったか」
 国王はまるで芝居がかったように言うと、両腕を広げ、入室した王妃を抱きしめた。
 こんなことは、メハが成人してから一度たりとも見た覚えがなかった。高官、大使たちの目の前だからこそ、こうした芝居をしたのだろう、とメハは半ば冷ややかな眼で父と母を見た。
 そして兵士長へ振り向く。
「わたしは軍省へ向かう。ここの護衛は任せる」
 と、これを聞いた国王は娘に初めて顔を向けた。
「すでに駆逐する段取りは整えておる。前線から味方の艦隊が向かってきている。もう少しの辛抱だ。お前もここに居なさい」
 父は娘を気遣う父として今度は芝居をする。
 これにもううんざりした様子でメハは言う。
「国民はこの間にも敵の兵士の刃にさらされているのです。首都の防衛を急ぎます」
 そういうと彼女はシェルターを後にした。
 この決断が後に最悪の決断だと後悔することになるとは、まだ頭の良いメハでも気づきはしなかった。

ENDLESS MYTH第6話ー5へ続く

第6話ー4

第6話ー4

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2018-09-06

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