超能力使いの面倒な弟子
力をつかわずに力を使う。禅問答のような言葉を、先日、師匠は私に投げかけた。念力の使い方は一通りマスターしたつもりだった、だけど、深い悲しみをもったような、いつも困り顔のあの師匠は、私に、超能力を使う事はなるべく避けるようにと教えた。彼女は、3年前、隕石の落下のそばにいて、超能力を身に着けたという、彼女自身は火を扱う超能力を持ち、夜中、この街の郊外にあらわれ、マスクと衣裳をつけ、顔と体を隠し、犯罪を、まるで警察の様に取り締まっているのだ、彼女は新聞に取り上げられるほど有名人で、誰もが本当の顔を知りたがっている、彼女は人とかかわりたがらないのには訳がある。私でさえ最近知ったことなのだが。身の回りにいる常人に、測らずも超能力を渡してしまう性質を持つらしい。そしてそれは、“ある秘密”を持っていた。私は、師匠に会う前から超能力を持っていたので詳しい事はわからないが、というより私が、師匠、と呼ぶことを許されたのも最近、なのだが、師匠を尊敬しているのにはわけがある。私は、師匠を見かけたとき、超能力の使い方について、ピンときたのだ。彼女こそが正義だと思った。
“これだ”
と思った。だからこそ私は師匠を慕う、師匠はヒーローだった、漫画のような、アニメの主役のようなヒーローだった。何度も何度も夜中の街で、同じくマスクと衣裳をつけた私と出会った。だが師匠は、私が能力者だと知って、私が助けに入っても、少しも私と仲良くしたり慣れ合ったりしようとしない、一度だけ、話しかけてくれたことがあったが、
「ごめんなさい」
といっただけだった、どういう事だったんだろうか、きっとそれは、彼女の“超能力”を渡してしまう性質に関係しているのだろうか。
ところで、最近、ある人間につけれていた私は、先週、習い事おわり家路に急ぐ帰り、そのストーカーと思われる尾行の形跡を感じて、一瞬振り返った。恐怖を感じていた、だが私は超能力者だから……警察には相談していなかった。振り返りざま見ると、そこにいるのはスーツ姿の女性だった。
「いつものストーカーじゃ、ない!?」
一度、ストーカーを見たことがあるが、目のキリっとした男性だった、そこにいたのは、普通の、会社帰りのOLと思われた。
「あなたにばれるなんて」
「え!?」
女性いわく、その人が“師匠”いや“名前のないヒーロー”らしかった。例の“名前無き炎使い”。このじだい超能力者はどこにいても見かける珍しくもないものになっていたが、師匠は、その理由を全て話してくれた。私はそれを聞き、ピンときた。師匠は、近頃多い超能力者と、それが身につくための“ある条件”の秘密を私に打ち明けてくれた。
“超能力は心と体の弱いものに、与えられる”
私は昨年まで不登校な、陰気な高校生だった。師匠に出会い、そんな私でも何か、影でヒーローになれるかもしれない、と思ったのだ。師匠は、多くを語らない、師匠は名前をかたらない、師匠は、真実を話さない。だから師匠を尊敬していた。少し裏切られた気持ちにもなったが、きっと師匠も、心が弱い、そう思った。私たちは、師匠の家に向い、夜更けまで話していた。しかし、その途中師匠は、ふいに外にでかけるといって、出て行った、師匠の家は一軒家だった、庭に向かうカーテンは閉められていた。師匠は誰かとそこで話しているようだった、違和感はあったものの、私はすごくねむくて、師匠の出してくれたお菓子やジュースをのんでいたのだが、ボーっとテレビを見ていると、庭でものすごく高い声がして、眩しい光が上がったのをみた。その後、男性との話声を聞いた。
「二度とあの子に近づかないで」
「わかったよ」
師匠は、私に、もうヒーローゴッコはやめろ、といって聞かせた。彼女は家の外に人の気配がすると思ってでていくと、私のストーカーらしかった、ストーカーは、しきりに私についての事を語りたがったが、師匠は聞かなかった、それどころか、全てを知っているとして脅したのだという、実際、彼に“超能力”を与え、指導したのは自分だと、師匠はいった。どうやらストーカーも超能力者らしかった。そして、私の超能力……それも図らずも、師匠に授けられたものだと、その時話された。師匠は泣いていた。
「自分が望まなくとも、そばにいる人間を超能力者にしてしまう、貴方にも何も説明ができなかった」
そういってないた。私が師匠に何度も、ヒーローを手伝いたいというと、ついにビンタをされていわれた。
「学生だから、あなたはまだ早い」
師匠は何でも知っているようだった。
私はまだ学生なのだ、翌日学校へ行き、HR前友人に頬の腫れについて尋ねられると。
「姉さんに殴られた」
と答えた、その友人にはしつこく、姉がいたかと聞かれたが、あいまいにして答えなかった。
超能力使いの面倒な弟子