第6話ー3
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クリスタルの都の防衛は、各所に配備された対空砲、戦闘機による迎撃が行われた。しかし敵艦の漆黒の巨体は100キロは越えている。その船首だけでも首都の空をおおうには十分であり、左右に突起した船首から排出される強襲艇と艦載機の数は、首都防衛のそれとは数が明らかに違い、クリスタルの戦闘機に比べ、黒い艦載機の数は、量が多すぎて空に蟻の群体が現れたような様子である。
これを母の屋敷で見たメハは、すぐに球体の乗り物のホロスクリーンを開いた。
「機雷と迎撃衛星はどうした! 敵の進軍が速過ぎる!」
悲鳴にも似た言葉がメハの唇から発せられる。
通信を受け取ったのは軍省オペレーターであった。
「敵は、敵の艦船は機雷を恐れていないんです。味方の犠牲にして、犠牲にして――」
通信が切られた。そこで通信を敵が妨害しているのだとメハは気付く。
蛮族のやることだから確かに、味方の屍を踏みつけて入ってい来るような連中であろうことは、メハにも予想ができた。
この空の光景を見て、初めて王妃も危機感を抱いたのだろう、娘の身体に身体を寄せてきた。
「クリスタルが、クリスタルの都があんなに簡単に」
酔いがいっきにさめた顔をしていた。
「母上、とにかくワートへ逃げます」
そういうと金縛りになった母の身体をクリスタルの球体へ押し込み、自ら乗り込むとワートへ自動操縦で移動を開始した。
首都中心部へ向かう乗り物の外では、敵の出現にさらなるパニックをおこした人の波で、乗り物が動けなくなった。
本来ならば、国民はこうべを垂れて王妃と執政官に敬意と尊敬を献上しなければならない。そういうしきたりなのだが、パニックに陥った国民にそうした余裕はなく、乗り物の湾曲したなめらかなクリスタルの壁面へぶつかってくるという、普段ではありえない行動まで起こしていた。
国民も自らの身を守るために必死だったのだ。
自動の乗り物が進まないことに苛立ちを感じるメハの横では、母が不安げな顔をしている。国民が平和であればこその優雅な生活だったが、この状態を見て、流石の王妃も優雅ではいられなかった。
降りて走るか。メハがそう考え始めた直後だった。広い通りで混乱する国民の目の前に、黒く錆がわいたバジャラハ国の強襲艇が降りてきた。下には逃げ惑う国民がいるが、関係なく踏みつけ、着陸すると同時にさび付いたドアが左右へ開くと、黒い鋼鉄の鎧をまとい、腕に反り返った剣を持ったバジャラハ兵たちがクリスタルの都に降り立ち、逃げ惑う国民を容赦なく切り殺し、鮮血がクリスタルを染めた。
「母上、逃げます」
と叫ぶなり乗り物の入口を開くと、母の手首をつかみ、強襲兵たちが殺戮を繰り返す反対側へと走った。
ENDLESS MYTH第6話ー4へ続く
第6話ー3