第6話ー2
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執政官ン・メハは、すぐに母親の住むクリスタルの屋敷へ向かった。国王である父、高官、大使たちは誰にでも警護はすぐにつく。
しかし王妃である母は首都中心部から離れたところに住んでいるため警護が間に合わない可能性がある。
また母の性格上、退避はしないであろうことは、娘であるメハには手に取るようにわかっていた。だから母のもとへいち早く向かった。
クリスタルの球体の乗り物に乗り込み、自動で母の屋敷へ向かう。
するとすでに戒厳令が出た首都では、多くの人々が混乱して、クリスタルの街道をパニックになって逃げまやっていた。
指定の各区画にシェルターがあり、各個人には、万が一の際、シェルターが割り当てられていた。そこへ向かうのだが人口密度が過密の、ビル群で入り組んだクリスタルの都で、人々が一斉に動くのだ、混乱が起こるのは当然である。
また空では溶解エネルギー、プロトンビーム、爆発の閃光が一面に広がり、クリスタルの都市の彼方の空中を巨大な敵軍艦の破片が落下していくのが見えているのだから、混乱はますます増加する。
「国王、高官、大使たちへの警護員配備状況は?」
ホロスクリーンでワートと更新する。
向こうのオペレーターも混乱の中、しどろもどろになりながら、迅速に警護員がワート地下に配備されたシェルターへ向かったことを報告する。
次に通信がつながったのは軍省参謀本部だ。
「敵の数は!」
ホロスクリーンには、眉毛がやたらと太い参謀が現れた。
「艦隊の数は200億を超えています。迎撃はとても間に合いません」
困惑を色の濃い参謀の言葉に、彼女は父の決断を止められなかった自分を責めた。
だからあの時、近衛軍団を派兵しなければ。
悔やんでも後悔しても、敵は目の前にいるのだ。
「とにかく国民の非難を最優先に動いてくれ。それと必ず敵は内部に居る。その調査もお願いします」
そういうとホロスクリーンを切った。
敵は内部に居る。つまり各国大使たちの中に裏切者がいるということを彼女は示唆していた。各国への迎撃を正式に依頼した。だからこんなに早く、しかも迅速に敵艦隊が首星までこれるはずがない。ジェザノヴァに属している国々の中に裏切った国が必ずあるはずだ。
メハは外部と内部の敵と戦おうとしていた。
クリスタルの球体が宮殿についたのは、いつもの移動時間よりも標準時間で40分も遅れてのことであった。やはり首都の混乱から警護隊の到着が遅れているらしく、未だ屋敷に警護隊の車両は見えていなかった。
その代わりに自動で非常時に屋敷が行う警護システムが働き、ロボットたちが巡回し、屋敷の周りには電磁シールドが展開されていた。
メハの乗り物はもちろん侵入許可が与えられ、慌て降りるとクリスタルのヒールで母の姿をクリスタルの屋敷に中で探した。
すると案の定、母親は一糸まとわない、年齢としては美しく湾曲した肉感的な裸体のまま、アルコールを飲み、首都の危機をなんとも思わず、酔いが回った赤い顔をしていた。
「あら、こんな忙し時にここまでくるなんで、国王の命令かしら?」
そうでなければ、忙しい娘が顔を出すはずがない。そういう意味の皮肉の言葉だ。
「母上、着替えてください。ワートに向かいます」
あえて叱責の言葉も口に出さず、要件だけを伝えた。
「まず落ち着きなさいよ。貴女もどう? 気分が落ち着くわよ」
娘から見てもきれいな裸体の母が身体をくねらせるのを、舌打ちしたい気分で一瞥すると、すぐに差し出されたクリスタルのグラスをクリスタルの台に戻し、母の腕を無理やりつかむと、寝室へと引っ張っていった。
「国王は?」
クローゼットから衣服を探すメハへ母は浮遊ベッドの上に腰かけて尋ねた。
「すでにシェルターへ向かわれてます。母上も早くシェルターへ」
服をつかむと母を絶たせて、それを長女は着せ始めた。
「国王があなたをここへ?」
着替えさせる娘は少し黙ったが、口の中でつぶやくように、
「いいえ」
とだけ答えた。
「そうでしょうね。あの人のことだから」
そういう母親の顔は、無表情だった。
母を着替えさせメハが屋敷の外へ出た時、そこには衝撃の光景が広がっていた。
クリスタルの都の空を覆い尽くす漆黒の戦艦が、堂々と空を占領していたのである。
黒く塗られた鉄と錆の塊が、ついにクリスタルの都まで足を踏み入れたのだ。
ENDLESS MYTH第6話ー3へ続く
第6話ー2