空から

 空から雨が降ってきた。夕立だったようで、すぐにやんだ。
 空から雪が降ってきた。一ミリも積もることなくやんだ。
 空から雹が降ってきた。車のフロントガラスが一枚割れた。
 空から靴が降ってきた。あらぬ方向へ飛んでいったので、明日の天気はわからなかった。
 空から鳥が降ってきた。翼がもげた死骸だった。
 空から虫が降ってきた。しばらくぴくぴくしていたけれど、そのうち息絶えた。
 空からサメが降ってきた。特に誰を食うこともなく、陸に打ち上げられて苦しそうにもがきながら死んだ。
 空からお金が降ってきた。ただの紙なので、風に吹かれて簡単にどこかへ飛んでいった。
 空から未確認飛行物体が降ってきた。何もすることなく、空中を数回旋回して消えた。
 空から隕石が降ってきた。少し大きな穴が開いたけれど、世界は滅亡しなかった。
 空から爆弾が降ってきた。それでも世界は滅亡しなかった。
 空から女の子が降ってきた。誰も受け止めることなく、地面に落下して死んだ。女の子の身体や頭からあふれ出した血やら脳みその欠片なんかが飛び散った。何人かの人が写真を撮っていた。僕はただそれを見ていた。
 空から何が降ってきても変わらない。何を期待しても意味はない。
 空から自分が降ってきた。すべてが暗転して、ようやく世界は終わった。

 空から天使が降ってきた。天使はただ哀れそうな表情をしただけでいなくなった。
 空から神が降ってきた。そこにいるだけだった。
 それから空からは何も降ってこない。
 空はただ静かで青い。それだけだ。

空から

空から

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2018-09-02

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