野球道ー名門野球部ー
ココロエ
☆1☆
野球をやっており、中学生最後の年で、U-15日本代表に選抜された。
ポジションはピッチャーだ。
国内でも全国大会に二度出場を果たした事もあり、メディアと高校野球方面にも有名となった。
両親も喜んでいる。
通っている中学でも騒がれてリトルリーグから野球をやってきた経験がついに実った瞬間でもあった。
「帰国後早々遅刻はまずいでしょ」
「咲和は?」
「起こしにきてくれたけれども、呆れて先にいったわよ」
「ったく、家の奴らときたら」
歩が話しているのは実母である。
隣の家に住む幼馴染で軟式野球部マネージャーの咲和とダブルコンビで毎朝なにかしら、歩に絡んでいじり倒してくる。
「そのうち、咲和ちゃんも愛想つかして他の男作るかもね」
「知ってて言ってるな。咲和は見慣れて恋愛対象外だね」
「LINEしとこ」
「最悪……」
やり取りをしながら御飯を食べる。
遅刻しそうなので本当に高速で食べる味など覚えていない。
制服には着替えてあるので、予め用意してあった鞄を持ち、歩いて30分の学園へと向かう。
遅刻しそうなので走って向かい、到着しているころには汗かいているな。
着替えでも持っていくか。
走りに走り学園へ到着する。
教室に入るとリトルシニアの奴らがにやけて、からかいの目で見てくる。
咲和は前方で黒板を消していて、わざと無関心な振り。
まあ。日常的な光景ですよ。
それを知っているので当然、咲和はこちらへと歩み寄る。
もうすでに顔はにやついている。
こういう小悪魔的なところがあるんですよ。
肩まで下げたセミロングで栗色に染められている髪をふわふわさせながらこちらへと、歩いてくる。スカートは校則にひっかからない程度にミニである。
こういうところからして打算が踏めている奴と思える。
本人的にはこうなるとはいうが、恋愛対象外からしてみたら鬱陶しい限りである。
「また、遅刻ギリギリ?」
「うるっさいな」
「幼馴染代表としてリトルで全国大会に出場した仲間としても見逃せない」
「なんだよー。恩までも俺をいじる材料にするのか」
「いーじゃない。いつも宿題見せてるんだから」
「えー。俺は疲れて勉強をする時間なんてないんだよ」
「あのね。メジャーリーガーは殆ど、国家資格か民間資格はもっているのよ」
「へいへい。それはアメリカの話だろ」
チャイムが鳴り、ショートホームルームは間に合わなかったので、一時間目から受ける事となる。
メジャーリーガー、か……。
「ああ。片岡、朝早くお前にお客さんが来てたぞ」
「客?」
「ああ。今はもういないがな」
「そっすか」
咲和もクラス中ももしかしてスカウトじゃね?などと騒いでいた。
スカウトねぇ。
まあ。侍ジャパン(日本代表は下部組織でも以下からは侍ジャパンと表記します)にも選抜されたからあながち来てもおかしくない話だが……。
放課後になり、担任の先生が慌てた様子で飛んできた。
慌てて進路指導室を開けての会議という事はやはりそっちがらみの話なのである事は確実である。
何か緊張してきて足が震えてきた。
案の定、数分経ってきた客人は知らない20代半ばの女性であった。
パンツスーツが良く似合っている。OL風の人だ。スカウトの人に間違いない状況だ。
「侍ジャパンに選ばれたあなたが、こんな遅刻魔だったなんて知らなかった。失望した」
「えっ……」
緊張から一気に目覚めて氷ついた。
「ウチで強制してあげるから寮にでも来て野球をやってみないか?」
う、上から目線。
でも一回、遅刻という失態をしているのに獲得に動いているのは相当、欲しいって事だな。
担任の先生も満面の笑みを浮かべた。
「おい、歩。聞いたか寮だぞ。これで遅刻には困らないじゃないか。いやー先生、お前ならやるじゃないかと思っていたんだ」
「おいおい何だよ。その手のひら返しは」
「……」
相手の女性は不愉快な顔を隠しきれなかった。
「あー……今すぐにでもなくていいの返事は三日以内にくれれば。じゃあ私はこれで」
名刺をスッと滑らせて、手元にきた。
名刺の名前を確認してみると町田大三高校の監督と書いてあった。
「かっ。監督なんですか。あの人」
「悪い先生も焦っていう時間がなかった」
「し、しかも町田大三って甲子園常連じゃないっすか」
「あーそうだ。その甲子園常連の監督さんがお前を欲しいんだとよ」
という事は遅刻さえしなければ、印象良かったんじゃん。
町田大三って進学高校でもあるんだよなー。そんなすごい高校からスカウトが来ると思わなかった。
咲和にもメールしておこう。何だかんだ言って野球をしてきた仲だもんな。
送信……と。
下校時刻なり、後はトレーニングをして、帰る。
トレーニングは軟式野球部のグラウンドの隅のブルペンを借りている。
最初は何か全面を使っていいよという善処を貰ったが関係者でもないものが、借りるのなんて悪いといい、ブルペンと外野のみのレンタルで話をつけたのであった。
「やっぱすげぇな。片岡先輩」
「軟式の俺らじゃあ無理無理」
「ってかよく、立川は捕れるよなあのボール」
「女のクセにな」
そうこの何でもない光景が今後日本を騒がせる事になるのである。
☆2☆
「ナイスボール」
「当たり前だろ」
歩のボールは性格とは逆にコントロール重視のピッチングスタイルだ。
チェンジアップとワンシーム・フォーシームを投げ分けられる。ファーボールも非常に少ないピッチャーである。
ブルペンキャッチャーをやっているのは、咲和である。
リトルリーグ時代、歩のボールを練習中に捕っていたので問題なく処理できるがその光景が軟式野球部の連中からしてみたら異様な光景であった。
女性でキャッチャーができるというのもすごいのにそれが、中学生になってからも続いているというのが凄い。
本人達は当たり前の光景と思っているが周囲では、末恐ろしい光景という評判である。
「そろそろ終わろう」
「ああ。日が暮れちまうな」
咲和がそう切り出してきて、軟式野球部の主将と監督にお礼を言いグラウンドを後にする。
軟式野球部の連中は、あんぐりと口を開けている。
何事もなかったかのように、帰宅する二人をマジマジと見つめている。
驚いて声も出ていない様子だが歩達からしてみたら、これくらいの事には慣れて欲しいと言わんばかりの当たり前の対応であった。
自慢もしなければ、卑下もしないそんな具合なのである。
帰りは咲和の自転車に二人乗りをしながら帰宅をさせて貰うのが、日常。
お巡りさんも声を違う意味でかけてくる。
二人乗りを見逃してくれるお巡りさんなどそうはいないので、そういう点から周囲の中学生から憧れの的である。
「ねぇ。ラーメン食べていく?」
「いいね。じゃあ。母さんにメールしよう」
「オッケー」
”御飯は咲和と食べてきます”
”了解”
母親はメールが苦手なので短文で送ってくる。
家族と咲和以外とはメールをあまりしない。
仕事で昔、メールを使用していたくらいだという。
ラーメン屋に入るといつもの油がこびりついた独特の匂いがする。
ここは遠方のお客さんも食べにくると言われているラーメン屋である。
SNSでうまいと評判である。
ここの主人はプロ野球の東京読買ガリバーズファンである。
中二くらいから、歩は将来は絶対に”巨人”にいけよと言われているのでアンチ巨人になってしまった。
まあ、ラーメンが上手いのでここの店舗にはそれでも足を良く運ぶが今日は、半年ぶりくらいとなってしまっていた。
最上級生になってやたらと忙しいんだよ。馬鹿野郎。
「おー歩ちゃん。咲和ちゃんいらっしゃい。母さん地元の英雄がきたよ」
「えっ。本当に! 久ぶりだこと」
夫婦2人と子供が大学生の娘一人でこのラーメン店「巨人」を経営しているのである。
夫婦は若い頃からラーメン修行一筋だった様だ。
ここには本物の著名人が多数訪れている。
「何が良い?」
「おっちゃん、とんこつラーメン2つで」
「はいよ」
店内は帰宅する学生と早上がりのサラリーマンでごった返している。
スポーツ談話が多いがここはガリバーズファンの集まるお店なのでガリバーズの話題が多い。
勿論、歩はここの有名人である。
咲和も一緒にいることでちょいと有名人になっている。小憎らしいがこいつはモテるからな。案外。
ここの常連は歩がアンチガリバーズでも一つも嫌な、顔はしない。
なんでこうなったか理由を知っているからである。
最初はガリバーズファンになれいと言わんばかりに矯正されていたが、常連もおっちゃんの態度を見るとないわと同情してきてくれた。
「うーん。豚の匂いがしておいしそう」
「ここの店のラーメンがあって、人生初めて頑張れるんだよ。俺も咲和も」
「嬉しい事言ってくれるね」
「ただいまー。あ。咲和ちゃん、久しぶり」
「ご無沙汰しております」
ここの娘と、咲和は仲が良かった。
姉が欲しかった咲和と奈美さんの妹が欲しいという、願いが偶然にも一致して意気投合し始めたのである。
そんな事もあってお店には二時間くらいは滞在してしまった。
「今度は私の部屋に遊びにきてよ」
「奈美ねえいいの!」
「おいおい。図々しい奴だな。断るくらいの義理はお前にないのかよ」
「これだけ仲が良かったら断った方が返って失礼よ」
「あっそう」
いじりに関してはやはり咲和の方が一枚上手である。
「とんこつラーメンごちそう様」
「いいえ」
ここまで来たら自宅も近いので歩いて帰る事にしている。
食後の運動にもなる。
家に帰宅をした。自分の部屋に上がるには、階段を上がらなければならない階段はモダンな階段を上がる。
ちょっと二階に差し掛かる時には直角に曲がるのである。
気の手すりであり、二階に到着する時には手すりを触る癖がある。
今日あった出来事を考えてみる。
町田大三のスカウトが会いにきて、欲しいと言ってくれてあのスカウトに見えた女性は監督だったなんて驚きだ。
町田大三の監督は男性だった頃しか記憶にない。
インターネットで記事を調べてみる。
すると、過去の記事で、”大倉監督辞任”と記載をされていた記事があったので驚いた。
理事長との方針が違う事で解雇との事と記載されていた。
☆3☆
あー。
あのおじいさん監督が成績不振で解雇になったのか。
確かにここ数年の町田大三は甲子園に出場できてなかったけれども、土台を作ったのってあのじじいだろ?
これはなくなか? 嫌、まああの女監督も眼光鋭く見る目はありそうだったな。
あの真っすぐな目は理論とかもブレないので、指導者向きではあろう。
一番困るのがすぐにああいえばこういう、指導者だが幸いな事に一度もダメ指導者に会った事がないのが幸いだ。
指導者は良い指導者ばかりに巡り合えた。
そんな思いに干渉をしていると、水を差すドアのノックが聞こえた。
咲和かな? 「へいへい、今ドアを開けますよ」多分、スカウトの事を聞きに来たのだろう。
まだ、表だって言える時期ではないので、咲和がラーメン屋で自慢をしていたのだろう。
「こんばんは。お風呂上りの美少女が来ましたよ」
「何だ。お前か、どこが美少女だ?」
見慣れているので、美少女と認識したことがないし、異性として意識した事がない。
意識したことがあるのは奈美ねえくらいだ。
隣の家に住んでいると”きょうだい”の様に育てられるので、異性としていつの間にか認識しなくなっている。
それもリトルリーグで野球をやった仲だとなれば尚更だ。
それでも咲和は男子からは人気があるので、可愛い方なのであろう。
中二の時は全国大会に出場をしたものだから、咲和とは恋人同士ではという噂が校内を激震させたのである。
これはフライデーされた気分であった。実害はなかったが……。
あれは今でもトラウマになっている。
「えー。せっかく奈美ねえがいるっていうのに」
「え? 奈美ねえが?」
ひょっこりと、化粧をした大学生の奈美ねえが、そこにはいた。
エプロン姿で見えなかったがビジネススーツを着こなしている成人女性はやはり魅力的だった。
この上にもお店では、ユニフォームを着ていたので拝む事が出来ない格好だった。
下はパンツでビシッときまっている。
咲和は、いつもの寝間着であった。
「スカウトが来たって本当?」
「うん。本当だよ」
「じゃあさ……。お願いがあるの」
「お願い?」
これだけ仲が良く、改まってお願いがある。
イントネーションと態度がかしこまっている。姿勢も星座になった。
そこまでしなくてもいいのにと、こそばゆい雰囲気であった。
「ファン一号にしてほしいの」
「え? あ、いや。ファン何て俺なんかでよければ嬉しいけれども」
「え? 確かにさ。こいつはそこそこ野球上手いけれども無名は無名よ」
「一言、余計何だよ! 咲和は。……。分かったよ。どこまでいけるかは保証ないけれおども奈美ねえは俺のファン第一号だ」
「じゃあ。サイン頂戴」
サインペンと色紙まで用意してくれて、ついつい感激を覚えて涙が出そうになった。
勢いよくサインを書くと上手い具合に、サインの自体の様に書けた。
開口一番、笑う奴がいた。
「何、これ。片岡ってほぼ読めるじゃない」
「うっせ、練習何てする訳ないだろう。中学卒業かどうかっていう選手が」
「ううん。良いのありがとう」
奈美ねえからのささやかな頼みは幼馴染の心ない、一言で感動が半減してしまい終わった。
いや。仲いいから許すけれどもさ。これ、他人にやっちゃダメよ。
仲が良い人同士の高等テクニックだから。
後の雑談で聞いたが、お店にいる時にメールで実は、奈美ねえも聞いていたらしい、今日、ウチに町田大三の監督が来た事を、そして町田大三の女性監督は去年、西東京大会でベスト4にまでコマを進めた凄腕監督だという事。
ちなみに性格はクソが付くほど真面目で、曲がった事が大嫌い。極め付けには冗談が嫌いである……。やっぱりな。
ただ、理事長と前監督のお墨付きという凄い指導者である事には変わりない。
よし、町田大三でやると決心をした。
それは誰よりも固い意志である。
どうにもまごまごして過ごしている間に情報を先生から聞いていたみたいなのである。
月日が経過して、返事も済ませて後は卒業を待つばかりとなった。
季節はすっかり冬間近という雰囲気であった。
そろそろドラフト会議か。
確かウチのリトルシニアからは一個上の大河内先輩が指名される筈だよな。
大隅実業の。
甲子園に出場をして、高校通算本塁打記録を打ち破った選手だ。
中学一年生の時は前任のキャプテンとしてまだ、リトルシニアに顔を出しにしていたんだよな。
向こうはこちらの事を認識何てしてないだろうけれども、憧れの先輩であったしたまにバッティングピッチャーをやらせて貰った。
対戦してみた感想は、凄いバッターだと憧れた。
そんな先輩が来週、ドラフトにかかるのは濃厚で何球団同時指名なのかが気になるところである。
甲子園勲章というのは野球界では相当に生きてくる。
例え地方大会でエースクラスの活躍や4番バッタークラスの活躍をしようが甲子園に出場をした8番外野手の選手の方が上位指名される暗黙のシステムなのである。
これが一番の甲子園の魔物なのではないかと、野球ファンの間でも騒がれている。
大河内先輩はその逆の何球団指名がくると言われている良いドラフトの神様がついていたのかも知れない。
そんな先輩を影で憧れていた。
おそらくこれは奈美ねえが密かに憧れていた思いと似ているのであろうと感じた。
☆4☆
午後になり野球に関係している生徒、先生はそわそわし始めた。
五輪ではないので、授業でドラフト会議を見て良いよと言われる訳もない。昔ならラジオ視聴という選択肢もあったらしが、ラジオ何てモダンな学生は持っていない。
咲和の事を何気なく見てみると、足を左右に組みなおしたり、手でボールペンを回してみたり、落ち着かない様子だ。
机の下にスマホを隠して、あードラフトの事を確認しているのだなとすぐに分かった。
先生の前では優等生ぶっているので、咲和の行動を監視している先生などいないので、スマホはとりあげられないでいる。
色々とLINEで罵声を送られて来ることもある迷惑な奴である。影でこいつは色々とやるからマジ打算してるよな。
だが、その行為にもある一定の線が引いてあり、歩が嫌だという事は絶対に書いたりしない気づかいがある。
更にセミロングの髪を撫でたりと落ち着かない度が向上しているのが分かる。
あ。忘れてはならないのが、町田大三のあの女性監督もおそらくこんな心境なのだろう。
野球人なら誰でも味わうこの心境を正に当事者の一人として、味わっている。
何かこんな時にはあの女性監督は、冗談言わないでとか突っ込まれそうである。
ボールペンとか額に飛ばされそう。
当事者となったらどんな心境か絶するところがある。
味わっては見たいが味わいたくない心境の両方ある。
5時限目後の小休憩になり、咲和が落ち着かない雰囲気で駆け寄ってきた。
「ねぇ……。大河内先輩の事気になるんじゃない?」
「ま、まあ。気になるけれども」
「スマホで私、結果見ちゃったけれども知りたい?」
「あ、ああ」
二人とも突っ込まなかったが唾が口の中にたまるほど緊張している。
ボーズ頭をかきむしる。緊張すると無意識のうちに出る行動だ。
無駄にスクワットをしたりする。が、こんな重大な時には二人とも冗談は言っていられない。
スマホの画面を恐る恐る、目を思い切り開いてみる。
すると……、8球団指名されている事実が分かった。
勿論、本拠地が甲子園という事で話題になっていた兵庫ツインズ、伝統の球団としてプロ野球を牽引している東京読買ガリバーズに武蔵野スパローズ、神戸ブルースターライト、横浜モバイルオーシャンスタース、等が続々指名していた。ファーストのスタメンがいるところでも指名されているこの凄さが伝わってくる。
末恐ろしい、気が付けばクラスの半分以上はドラフト会議の話題になっていた。
刹那、将来この中に入りたいと確実に、この時思えたのである。
当事者になり独特の緊張感を味わいたい。
最終的にツインズに指名された。
直ぐに次の授業になり先生も、ドラフト会議が終わるタイミングを待っていた様子である。
野球に興味のない先生なだけに感謝をしたい。
普段、勉強を頑張らないがこの時の授業だけは、真面目に受けた。
軟式野球の練習に顔だけ出す事になった。
「しっかし、大河内先輩のすごさは、これでよくわかったよ」
「全くねー。あの人の世代の次っていうだけで気が重いわ」
「まあ。ウチのキャプテン何て、凄いプレッシャーがあったって言ってたのがよく分かるね」
「本当ね。そんなチームでよくやったよ。あんたわ」
え?今褒めた? 珍しい。 と思いながらグラウンドに到着をした。
グラウンドでは早出の選手たちが自主練をしていた。
ウチの中学の軟式はお世辞にも強いとは言えない弱小チームなので、練習風景は部員全員が集まるという事がめったにない。
咲和もマネージャーをやりながら、練習と試合にちょくちょく出れる環境が良いとこちらを選んだ。
本当は硬式のリトルシニアに入団できる実力はあったのに、勿体ない事をしたと思っている。
「あ! 有名人がきたぞ」
「本当だ」
「大河内さんのバッピだ」
「?」
部員の会話を把握できずにいたが、のちに大河内先輩がインタビューでなんと、歩の名前を出していた事が分かった。
それでこの騒ぎなのか。物凄いしっくりときた。
早く更衣室に入りたいと思い、更衣室に入り誰もいなかったのでしばらくここで休んでいく事にした。
だが、更衣室で着替えグラウンドに出た後もこの話題が続いていた。
「い、嫌。俺はバッピに専念していただけだから」
「またまた。謙遜を」
「佐伯君。練習の邪魔」
「お、おい」
体操服姿の咲和にずるずると引っ張っていかれた。
ブルペンでいつもの様に投球練習に入っただけなのに、部員の視線が集まる。
これはやりにくいので、早めに切り上げる事にした。
これはどこに行ってもこんな騒ぎではないだろうかと、考えた。
リトルシニアのグラウンドに行ってもそうだよな。もう大会に出場をしない、先輩風吹かせた奴が行ったところで煙たがられてるのは目に見えているので行くのを自重した。
練習時間が終わり、帰宅する。
帰宅ルートは念の為に、ラーメン屋を避けて通った。
奈美ねえには申し訳ないけれども、一般客にも絡まれそうなの状況なのは安易に考えられたからだ。
面倒ごとを避けて通ったつもりだったが、家に帰宅をしたら母親から告げられた。
「町田大三の女性監督さんが20:00に来られるわよ」
「マジで!!」
漫画だと擬音が振ってきそうなシチュエーションである。
一難去ってまた一難かよ……。
だが、この訪問は一回遅刻という失態をしているので、これは名誉挽回するチャンスだと意気込んだ。
続く
野球道ー名門野球部ー