Netscape
いつかの夏─の日、二人で涼んだ木陰で
秋の風に吹かれてツクツクボウシが鳴く
残酷なまでに美しい─季節の中で
空気がキラキラと輝いて─いた
目の前の現実を掻き消すように──
黎明するまだつたないけれど若い感性
新しい時代─に自分の人生を託して
目一杯生きていこうと思ってたあの頃
それでも何かが崩れ去っていく予感を
どうすることもできないまま
ただ立ちつくしていた
ジュースの入ったコップを横に
ボーッと画面をスクロールしながら
夜じゅう情報の海─の中を波─乗り《サーフィン》していた
ページをめくれもしないまま
そして呪文のようなコードを組んで
そこから未来を始めようとさえ─思った
止めどない不安に蝕まれながらも
それでも新しい世界に羽ばたこうとしていた
使い始めたばかりのメール
君からの返事をドキドキしながら待っていた
つながるって楽しいとそのとき素直に思った
──だけど、もうさよならだったんだね
なぜかずっと気付かなかったんだ
別れの挨拶さえ交わさないまま手を離して
画面の液晶の中に失った潤いを感じてた
透明─よりももっと透明な─思い出
ネチケットという幻想─の中で
ネットの中にたくさんの人格─が漂っていた
みな─幼いココロをした夢見人
ガラス玉のような色合い─に憧れていた
あの頃は卑しさなんて知りもしなかったから
ただスクリーンの奥に
夢が潜んでいる気が─していた
窓の奥、闇─の彼方、残光のトワイ─ライト
夜の奥遠くを吹く風に心が吹かれているよ
いずれあの場所は目指すべき場所になる
永遠─に届かぬ場所だともまだ知らずに……
誰もが幼すぎたと言う小さな世界
そこからしか視えないものが、きっとある──
Netscape